大好きだよ
隠していたわけでも内緒にしていたわけでもない。
言うタイミングがなかっただけ…―――そんなの言い訳か。
―――私の恋人はモテル。
勿論異性からの尊敬だったりは適度にあって、それ以上に女子にモテルんだ。
先輩の結婚祝いで今日は盛大な飲み会が開催されている。
同期のゆきみちゃんの彼氏の直人くんと直己くんが幹事でバタバタと動きまわっているから私達は後ろの席で二人で飲んでいた。
遠目に見える恋人の眞木さんは相変わらず色気ムンムンのお姉さん達に囲まれていて、一緒になって盛り上がってる。
いつものことといったらいつものことなんだけど、やっぱり気が進まない…。
「えみちゃん目が座ってる…」
「えっ!?」
「眞木さんモテモテだね…」
「たはは。直人くんは忙しそうだね」
「うん。岩ちゃん呼んじゃおうよ!」
そう言ってゆきみちゃんが手を上げると、気づいた岩ちゃんがキョトンとした顔でこっちにやってきた。
その後ろ、何故か一緒に来たのは敬浩。
…―――私の元カレ。
勿論知る人ぞ知る。
眞木さんに心奪われる前のほんの数か月、私の1番だった敬浩。
「盛り上がってる?」
「どーだろ…」
私の言葉にクスって笑ってポンっと小さく頭を叩くとドカっとあぐらを書いて隣に座った。
あの頃と変わっていない香水が鼻をついて一瞬だけドキっとしたなんて。
「そういえば俺この前噂で聞いたんっすけど…」
そう言ったのは岩ちゃんで。
その言葉を追いかけるみたいに直人くんと眞木さんがツイでこの場所にやってきた。
「敬浩さんとえみさんって付き合ってた!って…」
岩ちゃんの予想外の言葉にウーロンハイを噴きそうになった。
「はいっ!?」
「あ――まぁ昔の話ね!」
悪気もなく敬浩がそう答えて。
思わず眞木さんの顔を見ると、頬がピクリと動いた気がした。
「そうだったの?」
ゆっくりと低い声でそう私を見て言った眞木さん。
いつも冷静で大人な眞木さんらしからぬ声色で…。
「まぁまぁ眞木さん落ち着いて!」
直人くんがそう言ってゆきみちゃんの腕を引っ張っていく。
慌ててゆきみちゃんが岩ちゃんと敬浩の腕も引いて一緒に連れていってしまって、今ここには私と眞木さんの二人きり。
たった今敬浩が座ったそこに腰を下ろす眞木さん。
ウイスキーをグビっと一気に喉の奥に流し込んでその目で真っ直ぐに私を見る。
「眞木さん」
「えみ…」
「え、はい?」
「言っとくけど俺だって嫉妬ぐらいするよ…」
「…え?」
「噂…何で今頃流れたんだよ?敬浩と何かあったの?」
「え、眞木さん?酔ってるの?」
「ああ酔ってる!」
そう言う眞木さんは私の髪を指ですくうと、それを自分に引き寄せてそっとキスをした。
カアァーっと胸が熱くなる。
「答えろよえみ」
「ない!何もないですっ!私は眞木さんと出会って眞木さんに恋をしてから眞木さんだけですっ!!」
思わず大き目の声でそう言ってしまったけれど、ここは飲み屋で、私の声なんてかき消されていたからこっちを振り向く人なんていなくて。
だから眞木さんもニヤって口端を緩めて更に私との距離を詰めた。
「なるほどね〜」
「や…今のはその…」
「知ってたよ、えみと敬浩が昔付き合ってたこと…。でも昔の話だからって気にしてなかった。でも今頃そんな噂が流れたから…俺だって心配だった。えみが俺しか見てないのは分かってるけど、男なんていつだって重たいぐらいの気持ちぶつけて貰いたいものなんじゃないかって…。だから…」
そう言った眞木さんは私の髪をさわさわと撫ぜていて。
一度息を吐き出してから私を見つめた。
「ずっと好き好き言っててよ?」
「…眞木さん、好き」
思わず即答で答えてしまった私を後頭部に回した腕で引き寄せる眞木さん。
すぐそこに眞木さんの顔があって、私のオデコが触れていて…
「早ええな…でも…じゃあご褒美…」
「え?」
「大好きだよ」
言葉と共に眞木さんの甘いキスがほんの一瞬私の唇に触れて。
見つめ合った眞木さんは耳元でこっそりこう続けた。
「抜け出そっか」
そう言って眞木さんが私の手を引いて立ち上がる。
「はいはい、後は僕らにお任せくださいよ〜!」
直人くん達が手を振って私と眞木さんを二人っきりにしてくれて。
「このまま二人っきりの世界へ…」
そう言って眞木さんの胸の中にフワっと飛び込んだ―――――。
*END*
Special Thanks Love EMI