お前の大丈夫はあてにならない


「私は何でも大丈夫。そう言って溜め込んで本当にしんどくなっても何も言わないから、美月は定期的に会わないと心配なの!」




先日地元の友達に会った時に、そんなことを言われた。

そう言われたものの私の限界は私がわかっていて。

だから今回もまだ大丈夫だって思ってたんだ―――――




「美月、お前あの案件どうなった?」


ポンっと肩を叩かれて振り返ると同期の臣くんが爽やかに書類を片手で持って立っていた。

その大きな目に見つめられて思わず魂が抜かれそうになった。

そんな私を分かってか、臣くんはニヤリと意地悪そうに笑うと「見とれてんなよ、バーカ」そう言って持っていた書類でポカンと私の頭を軽く叩いたんだ。


「見とれてないもん!」

「嘘くせぇ」


自信満々の臣くんは社内でも同じく同期の隆二くんと張るぐらいの人気者で、こうして社内で普通に喋ってるだけでもやっかまれたりすることも。

だけどきっと私のバックにいる人達が強すぎて、私に直接文句を言ってくる人なんて誰もいなかった。



「あ、いたいた!美月ちゃ―――んっ!」


社内をスキップしてこっちに近づいてくるゆきみさんと彼氏の直人さん。

その後ろを歩いてくるイケメン啓司さんと…てっちゃん。

マイダーリンてっちゃん。

てっちゃんの姿を見て思わず顔がニヤけた。


「うわイケメン発見!今夜お姉さんとデートしない?」


ゆきみさんが臣くんの腕に絡み付いてそんな誘惑。


「うおおおおおおおいいいっ!お前彼氏の前で浮気とはいい度胸だな!」


直人さんに剥がされて「てへ」って微笑むゆきみさんに「直人さんいない所で言ってくださいよ」なんて臣くんに言われて笑ってる。


「直っさんじゃあ今夜俺と?」


そう言って自分を指差す直人さんのことが大好きなチャイな啓司さんに苦笑いを返して遠慮している直人さん。

私たちは社内でもいつもこんな感じで、この人達がうちの会社を仕切っているから誰も私には何も言わない。

面と向かっては言われないけど、きっと影ではすごい言われているんじゃないかって。

仕事で私に仕返ししてくる人がここ最近倍増したように思えた。

でもそんなことでこの人達に心配かける訳にはいかないし…―――単なる僻みだって、すぐにおさまるって…



「冗談は置いといて、明日の午後一のプレゼン準備どう?私手空いたから午後から手伝えるよ?」


ゆきみさんの言葉にキョトンとゆきみさんを見る。

そういえば臣くんもさっきあの案件って…


「え、あの…プレゼン私通ってます?」


おそるおそるそう言ったら、てっちゃんが「ん?どういうこと?」小さく首を傾げたんだ。


「ごめんなさい私プレゼン落ちたって聞いてて…」


そう言ったら「誰に?」ド低い声でてっちゃんが私の腕を掴んだんだ。

不良上がりのてっちゃんは時々素が出ちゃって。

かといって啓司さんも同じ人種で。

言っちゃえばゆきみさんもそうで…唯一の真面目ボーイは直人さんだけだった。

だからか、私を囲む人達の目つきが一瞬にして変わったように思えて。

助けを求めるように臣くんを見たら、臣くんまで怖い目で私を見たんだ。


「まぁまぁみんな顔すっげぇ怖いから落ち着けって!」


直人さんがそう言ってくれたけど、てっちゃんは絶対に私の腕を離しそうもなくって。


「いいから誰にやられたか言え、美月」


顎を掴まれて無理やり視線を合わせるとそう凄むてっちゃん。

…怖いけど、かっこいい!

なんて思ったのは内緒にします。

私の為だって思うけど、なんだかチクってるみたいで…「言わないとここでベロチューするよ?」軽く舌を出してチロチロと動かすてっちゃんにハートごと射抜かれるんじゃないかって…。

泡を吹きそうなくらいテンぱった私は「大丈夫だから、私が自分で言うから!」そう言ったんだ。

でもシレっと私を見ているてっちゃんはほんの一瞬笑いを零したかと思うと、こう告げた。


「美月の大丈夫はあてにならないから、俺が守ってやる」


…―――なんだろうか。

私はてっちゃんと恋人で付き合っているというのに、一々てっちゃんの言葉行動に一喜一憂してしまう。

てっちゃんがくれる言葉は全部が私への愛がこもっていて…すごく心地いい。


「幸子さん…」

「了解!ゆきみ頼んだよ」


そう言って私の手を引いて歩き出すてっちゃん。


「かしこ、かしこまりましたーかしこー!」


なんて言いながら敬礼するゆきみさんを台詞取られた!って顔で見ている直人さんが印象的だった。




「てっちゃんどこ行くの?」

「ん?いっぱいチューできるところ…」


まさかそんなことを考えてるなんて思ってなくて、カアーっとなる私の肩をフワリと抱いた。


「美月さ。頼むから”大丈夫”だと思わないで。俺結構頼りになると思うんだよ」


心配してくれているんだって。

そんなてっちゃんの優しさが嬉しくて小さく頷いた。


「よし!んじゃここね」


そう言ってエレベーターに乗り込んだ瞬間、てっちゃんの甘いキスが落ちたんだ―――――






*END*

Special Thanks Love MIDUKI