コントロールがきかない…
人を好きになって初めて知るこの気持ち――――
「ユヅキ!ユヅキ!!」
物凄い音を立てて部屋に入ってくる恋人の直人。
ベッドの中から顔を出すと息を切らせた直人が目に入った。
「大丈夫かっ!?」
スっと私のオデコに手を当てた直人は泣きそうな顔で私の頬を抓った。
「心配症だなぁ、直ちゃんてば」
「するに決まってんだろ、ユヅキが早退したって聞いて。つーか俺が一緒に帰ればよかったのに、先生ひでぇや…」
ムゥッてアヒル口を突き出してあぐらをかく直人。
そんな私の部屋をガチャって開けて顔を出したのはママ。
「直人くん、ちょっと出掛けてくるからユヅキのこと頼むわね」
「はい!任してくださいよっ!」
敬礼のポーズを取る直人が可笑しくて小さく笑った。
昨日から怠くて、少し無理して学校に行ったものの熱があがっちゃってそれで早退してきた。
だけど薬飲んで寝たらだいぶ楽になった所で直人が帰ってきたんだ。
ママがいなくなってシーンとなったこの部屋。
「宿題でた?」
「出てねぇ出てねぇ!ラッキーだよな」
「ほんと?よかった!」
ニコッと笑うとベッドの横に腰を降ろして直人が私の髪を優しく撫でてくれる。
その手が温かくてベッドから手を出すとギュッとその手を握った。
「ユヅキちゃーん。それ以上は止めてねぇ。さすがに俺、熱のある恋人を襲う気はないから」
本気か冗談か直人の言葉は素直で、ちょっとだけからかいたくなっちゃうわけで。
だから笑いながら直人の手にチュッて唇をつけた。
「せっかく二人きりなのになぁー」
「こらこらこらー!お前なんちゅーことすんだよっ!今俺が言ったことまるで無視じゃねぇか!」
「なーお…」
甘めの声を出すとゴクッと直人が唾を飲み込む音がして。
私と繋がっている手をギュッと強く握る。
下からジーッと見つめてるとゆっくりと直人の反対側の手が私の頬に触れる。
「…ユヅキ、キスだけしてもいい?」
結構簡単に我慢できなくなってる直人が内心物凄く可愛くて、私はコクッと頷いてそっと目を閉じた―――――
ギシッて直人がベッドに深く座って私の枕の横に手を着いて顔を寄せる。
ムニュって、小さく唇が触れてすぐに離れた。
一度触れてしまったそこは、ほんの一瞬なんて温もりじゃとても足りなくて。
「なお、もっとしていいよ」
私がそう言うと困ったように眉毛を下げて苦笑いをする直人がそこにいて。
「や、でも…」
「風邪、うつっちゃうからダメ?」
私が聞くと「風邪なんて俺にいくらでもうつしていいよ」そんな言葉をくれて。
だから直人の腕を引き寄せてベッドの中に入れようとするけど、やっぱり男の力になんて到底敵わない。
あくまでベッドに入らない直人は、ブンブン首を横に振っている。
「ユヅキが苦しいのは勘弁。弱ってるのに無理やりしたくねぇ…」
「無理やりって直ちゃん…キスぐらい全然できるよー私…むしろ直ちゃんのキスが薬だもんっ」
ムゥッてさっきの直人みたいに唇をアヒル口で尖らせるとフニャって眉毛を下げた。
「そんな可愛いこと言うなよー」
弱々しくそんな言葉を言った直人は、ふぅーって息を吐き出してブレザーを脱いだ。
「キスだけな、キスだけ…」
「何だか自分に言い聞かせてるみたいだね」
「そりゃもう、呪文のようになっ!」
八重歯を見せて笑うと、掛け布団をあげて素早く直人がベッドに入った。
私の横でベッドに肘をついて見下ろす直人はちょっとだけ鼻の下が伸びていて、ちょっとだけ男の顔になりつつある。
「あは!薬はーやーくー」
「…たく。早くよくなれよ」
そう言ってさっきとは全く違うキスが降りてきた―――――
ギュッと直人の身体に抱きつく私を優しく抱きしめ返しながら何度も角度を変えて唇を重ね合わせる。
幸せな時間。
キスだけって呪文の言葉は、そのキスを繰り返しているうちにどっかに飛んでってしまったかもしれなくて。
不意に直人の腕が私のパジャマの上から胸に触れた。
でも次の瞬間、クシュンって私の口から出たクシャミ。
それにハッとして直人が顔を上げた。
やっべぇ…って顔で「ごめんっ」頭を下げる直人に首を振る私。
クルリと背を向けて大きく呼吸を繰り返す直人に後ろからギュッと抱きつく。
「だめだ俺…マジこんなんじゃだめだ」
「ダメじゃないって」
「…コントロールがきかない」
抱きつく私の手を上から重ねてギュッと握られる。
「ユヅキに触れると全部吹っ飛んじまう」
「直人…」
「このままでもいい?振り向かねぇから、少しこのままでいさせて」
「うん」
いつだって優しい恋人の直人。
いつも欲しい言葉をたくさんくれる優しい直人。
「直ちゃんだーいすき」
「俺のがだーいすきだよっ」
後ろから小さく呟くと、そんな返しの後、ゴクッてまた直人が生唾を飲み込んだなんて―――――
*END*
My only one words