俺が守るから
「えっ、ウソ!もうこんな時間!?」
社内にある掛け時計を見てドッと疲れが押し寄せて溜息をついた。
いつもは人が沢山でうるさいくらいのこのフロアもこの時間になると人もいなくてだだっ広いだけでちょっと怖い。
毎日今日こそは早く帰ろうって思っているのに、いつもこんな時間になっていて。
まぁ明日はお休みだからいんだけど、それでもやっぱり誰かと一緒に美味しいご飯食べて美味しいお酒飲んで、仕事のこと忘れてリフレッシュしたいものだ。
椅子の背もたれにもたれかかったままボーっとしていると、静かなフロアに足音が響いた。
「ユヅキさんまだいてはったんっすか!?」
「ほんとだ!お疲れ様…」
後輩の健二郎と直人が揃って入ってきた。
「お疲れ――!どうしたの、二人共」
「いやぁ、忘れとったプレゼンの資料とりにきたんっすよ」
「そう、忘れたのお前な!」
健二郎をボカって軽く殴る直人が可笑しくて頬を緩ませた。
「あそこの偉いさん…私よく知ってるから、何かあったら私の名前使いなよ!」
別に先輩面している訳でもないけど私はこういう性格で。
後輩の前で弱い姿なんてもっての外、一社会人として強くありたいって思っているのかもしれない。
「マジっすか!?助かりますわ〜。俺あんの偉いさん相性悪いんで…」
「イケメンだからじゃない!?女好きだしね、あの人」
「ほんまにあんの年でオトコ出さんで貰いたいですわぁ〜」
健二郎と話ながらも直人に視線を送ると、何だか腑に落ちないような顔で。
「直人?どうかした?」
私の声に苦笑いを返した。
「健二郎、煙草買ってきて」
不意にそう言って。
一瞬驚いた顔を見せた健二郎だけど、「人使い荒いっすよ、先輩!」なんて言ってフロアから出て行ってしまう。
当たり前に二人っきりになった私と直人。
私の隣の席の椅子を引っ張って反対向きに子供みたいに座る直人。
俯いていた顔を上げて、真っ直ぐに私を見た。
「何か、無理してない?ユヅキさん…」
「…え?」
「その仕事、ユヅキさん一人がやらなきゃいけない仕事じゃないでしょ?」
デスクのPC画面をチラっと見てそんな言葉を飛ばす直人。
「そんなことないよ…これは私の仕事よ…」
「そうかな?それくらい裕太にやらせてもいいと思うけど…」
心の奥を見透かされてしまいそうなくらい真っ直ぐな直人の視線に思わず目を逸らした。
「見てるから分かるんだよ、俺…」
そう言った直人は、デスクの上にある私の手の上に自分の手を重ねて…――――
「直人…なに…」
「俺が守るから…」
「………」
「ユヅキさん嫌なこと全部一人で引き受けちゃって頑張りすぎなのちゃんと俺は見てるから…」
「直人…」
「だから俺のこともっと頼って。後輩だけど俺もユヅキさんの仕事軽くすることぐらいいくらでもするから…」
そう言って直人の手が私の上から離れていった。
何かすごい言葉貰ったよね、私…。
え、だって!!
そう思って顔を上げた瞬間、フロアに健二郎が戻ってきた。
「先輩、雪っすよ!」
頭に白いカケラをのせて…。
直人は何もなかったみたいに立ちあがってそれから健二郎の肩に腕を回して絡まりつく。
いつものフザケた直人がそこにいる。
だけど、私の胸を鳴らすこの鼓動は一向に治まることはことはないのかもしれない…―――――
*END*
Special Thanks Love MAMI