俺じゃダメ?
「ごめん、好きな人いる…」
「…そっか、分かった!ちゃんと答えてくれてありがとう…」
「うん…」
クルリと背を向けて去っていく後姿。
それが完全に見えなくなった所で私はその場にしゃがみ込んで小さく息を吐いた。
好きな人に自分の気持ちを伝えることがこんなにも難しいことだなんて。
いつになったら言えるんだろうか、私って…。
ダンス部のナオトを好きになってから仲良くなれたものの、その距離が縮まることなんてサラサラなかった。
老若男女全ての人から愛されキャラのナオトはクラスでも部活でも学年でも人気者で、いつ何時もナオトの周りには人が群がっている。
「あれ?何してんのっ?」
紙パックのイチゴ牛乳をチューチュー吸いながら告白の名所であるここ裏庭に姿を見せたナオト。
「ナオトこそ…」
「俺?まぁ…散歩?」
「…散歩って」
「つーかここって告白の名所じゃん!ユヅキ…告られたん?」
ジッと私を見つめるナオトの小さな目は至って真剣で。
言ってみようか、イエスって。
どういう反応するかな…
ほんのちょっとの期待を信じて私はナオトを見たまま「うん、告られた…」そう言ったんだ。
一瞬目を大きく見開いた後、ナオトはイチゴ牛乳をゴクゴク飲み干して…「へぇ〜」小さく呟いた。
別に興味ないって感じに。
「聞いたわりに興味ないんだね」
だから嫌味を込めてそう言ってやった。
可愛くないって分かっていながら。
期待した自分が馬鹿みたいって。
ここ最近すごく仲良くなって、時々二人っきりで一緒に帰ったりしてたからって。
好きなのは私であって、ナオトの心なんて分かるわけないのに…。
「…いや、そうじゃなくて…何で俺がここにいるか不思議じゃねぇ?」
意味深なナオトの言葉。
「散歩…じゃないの?」
「まぁ、そう!そうだけど…」
「…え?なに?」
私が聞くと、困ったように眉毛を下げて、それから苦笑いで私を見た。
ゆっくりと大きめの口を開いて続けてこう言ったんだ。
「だから、ネッさんがユヅキを呼び出したの知って、心配でつけてきた…」
ナオトの口から飛び出た言葉にキョトンと彼を見返す。
「え?え?なん、で?」
私の質問に一度目を逸らして、それから真っ直ぐに私を見つめた。
「俺じゃダメ…?」
声は何となく恥ずかしそうなのに、どうしてかドヤ顔に見えるナオト。
「告った?」
私の言葉に八重歯を見せて「まぁ、そう!告ってる…」珍しく照れた顔を見せるナオトは可愛くて。
「他の男に取られてたまるかよ!って思って…尾行した訳じゃねぇよ!ついてきただけ…」
慌てるナオトはやっぱり可愛くって。
「それ尾行っていうんだよ、ナオト!」
思わず笑ってしまうと、その距離を埋めるナオト。
一気に私たちの距離が縮まって途端にドキドキする。
「返事は?」
私の頬に手を添えるナオト。
ここまできたら私の返事が分かっているんじゃないかって。
そうじゃなきゃこんなことできるわけないって。
でもそれがナオトであって、私の好きな人なんだって…
「私も、ナオトがいい…」
そう言うとニコって目の前で嬉しそうに微笑むナオトが「やっぱ両想いだったぜ」小さく言われて、甘いキスが降りてきた――――
*END*
Special Thanks Love RINGO