俺から離れんな

自分の手帳を見て小さな溜息が出た。

EXILEのAKIRAと付き合っているというものの、この手帳にアキラとの予定が記入されることがほとんどなくて。

ツアー真っ最中で地方各地に飛んでいるから当たり前と言ったら当たり前なんだけれど…―――寂しい。

アキラは私がいなくても平気なの?

そんな言えない疑問ばかりが私の脳内を支配していた。


金曜の夕方、間もなく定時を迎えようとしているここ化粧室では、それぞれがアフターデートの為に奇麗に着飾っていて…


「じゃーね、ゆう!」

「また来週!お疲れ!」


次々に出て行く同期を一人寂しく見送った。

仕方なく私もお化粧室から出て帰り支度をしていると、同じ部署の先輩がポンっと私の肩を叩いた。


「ゆうちゃん、よかったら飯行かない?」

「先輩、お疲れ様です!…二人、ですか?」

「そう!できれば二人で…どう?」


世の中には生理的に受け付けない人間とそうでない人間がいると思う。

少なからずこの先輩は人として素敵だと思うし、どちらかといえば社内でも人気のある先輩で、私の周りにも狙っている子だっている。

私にはこういう人がいいのかもしれない。

傍で私に優しくしてくれる人が…―――――


――――なかなか連絡の来ない芸能人の彼氏を待っているよりも…――――――なんて、無理か。



「ごめんなさい、先約があるんです私…」



そう言って結局いつだってアキラを選んでしまう。

今日連絡が来る保証なんてどこにもない。

予定が空いた所で、私に逢いに来ることすら分からない。

だからきっと今夜も寂しい夜になるんだ…――――――って…






「お帰り〜」


キャップを深く被ってサングラスをしたアキラが私の家の玄関の前に怪しく寄りかかっていて。

その姿を見ただけで今まで逢いたくて逢えなかった気持ちが溢れてしまいそうで…


「ばか…」


そう言って俯く私をアキラの大きな身体がすっぽりと包みこんだんだ。

ポンポンって頭を優しく撫ぜてくれる大きな手も、分厚い胸板も、ドギツイ香水も…全部何もかも覚えていて。

ちっとも忘れられなくて…


「逢いたかった…アキラ…」

「ごめんな、急で」

「いいの、急でも何でも逢いに来てくれただけで嬉しいの…」

「ゆう…」

「あ、ごめん。鍵開けるね」

「うん、サンキュー。あでも飯は?」

「一応簡単に作るけど。さっき先輩に貰ったワインもあるし、飲もう!」


さりげなく言ったその言葉だった。

でもアキラは私が抱えていたワインを奪い取ってジっと見つめて…「先輩って?」そう言ったんだ。


「え?会社の先輩…」

「へぇ〜。男?女?」

「…お、とこ、だけど…」

「…じゃこれいらねぇ」


…―――え?

まさか妬いてるの?

別にそんなんじゃな、いこともないけど…

思わずニヤけそうになる頬を手で押さえた。


「言っとくけど、ゆうは俺んだからな」

「うん…」

「聞いてる?」

「うん…」


私を見て目を逸らすと、ボソっと言ったんだ。


「俺から離れんな…」


そう一言。


「うん…」


素直に頷く私を見て「つーか、離さねぇけど…」そう言うと私の腕を掴んで引き寄せた。

その先に言葉なんていらなくって…

逢えなかった分の寂しさを、アキラは十分埋めてくれたんだ。

分かってるけど…――――私が離れないからね。





*END*

Special Thanks Love YU