相合傘


アサミちゃんの言葉というよりは、哲也と啓司が給湯室で何で私の話題をするかって思うと若干のイライラが募る。

あいつら煙草吸いながら適当言ってたのが誰かの耳に入って噂で広まったんじゃないかって…。

グサグサとペンネをぶっ刺していた私を見てハルが「せせせ、先輩、ペンネが痛そうだよ?」苦笑いで言った。


「あ?」

「いえ何でも…」


ジロっとハルを睨むとビクっと肩をすくめて。

隣のアサミちゃんも言わなきゃよかった…って顔に見えなくない。


「ねぇそれって、隆二くんがユヅキのこと好きってことなんじゃなくて?」


穏やかにそう言うえみの言葉にアサミちゃんは少しホッとしたように頷いた。


「あたしもそう思います」

「げ、今市め!」


ハルだけは納得いかないって顔をしているけど。

ふと考えた隆二のこと…。

確かに優しくて紳士的でちょっと揺れそうだったけれど…。


「けどユヅキは直人くんだもんね」


ポンってえみが私の背中を優しく撫ぜて。


「うん」


直人のことだけはハルは何も言わない。

私が本気だってことが分かっているから。

言ったところで返り討ちになることも分かっているのかもしれないけれど…。

ここ数日で隆二は一気に私との仲を詰めてきて…そんな風に思えるわけで。

今朝のこともあるし、何となく不安を抱えたまま、楽しいランチは終了した。



そんな私を待っていたであろう、定時過ぎ。

既に帰る準備を始めた私の隣で取引先との電話を終わらせた直人。

えみは娘さんのこともあってフライング気味で「ごめん」って言いながら早々あがっていて。


「行けそう?」


私の肩に手を置いて直人が言った。


「うん、行ける」

「んじゃ行こう」


そう言って私を立たせると、背中に手を回して誘導するように社内から連れ出した。

外は生憎の大雨で。

折りたたみ傘を開いた直人は「入って」そう言って直人の傘の中に私をおさめた。


「相合傘なんて久しぶり…」

「俺も…」

「直人優しいから私よりにさしてるでしょ?」

「そんなことねぇよ」


そう言ったけど、目当てのお店についた私達。

傘を閉じた直人の右側はびっしょりで。

タオルでそんな直人を拭いてる私の頬に直人の冷たい手が触れた。


「ユヅキ…」


傍で名前を呼ばれて見つめると、熱い瞳で私を見ている直人。


「うん?」


首を傾げて直人を見ると「今日俺ん家こない?」甘い誘いが届いた――――。






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