優しさに甘えて
「あ、啓司さんおはよ!いやぁ〜じつは俺等…―――ねぇ!」
目からハートを飛ばす直人に同意を求められて若干苦笑いの私。
物凄く不満げに私と直人を見比べた啓司は「直っさん…騙されてる」ボソっと呟いたんだ。
だから思いっきり啓司の腹筋を肘でどついたら「いってぇ!」私を睨んだ。
だけどこの問題をないがしろにすることもできない。
だからと言って、直人に真実を言う勇気もなく…
「ユヅキと付き合ってる」
こうやってちゃんと友達に私を紹介してくれる直人を、心の奥底で裏切っているようで苦しさを感じた。
とにかく会社についたら隆二と話さなきゃ!!
「哲也に報告すっから」
会社につくと啓司がまるでチクリ魔のようにそう言い放って私の前から消えた。
そんな啓司を何の疑いもせずに「機嫌悪いね、なんか…」不思議そうに首を傾げている直人。
幸せだと思ったのは一瞬で、この一線を踏み越えていけなかったんじゃないかって、ほんの少し後悔すらおこっている。
隆二とのこと確かめなきゃ…
そう思えば思うほど直人の言葉は耳に入ってこなくて。
「ユヅキどうした?大丈夫?」
直人が私の頬に触れたことで意識を彼に戻した。
「あ、うううん。なんでも…」
「けど何か顔色悪いな。俺色々無理させちゃった?」
「そんなこと…」
「医務室行く?」
「ねぇ直人…」
「うん?」
まだ人の少ないこのフロア。
私達の話す声も通って閑散としている社内。
そっと直人の腕を掴んで自分の手で包み込んだ。
「お願いがあるの…」
私の言葉に真っ直ぐ私を見つめる直人はどう見てもかっこいい。
ベッドの上とはまた違うかっこよさを放っている。
「私達のことなんだけど…しばらく内密にしない?」
キョトンと瞬きをして私を見ている直人の指をキュっと強く握る。
「え、付き合ってること?」
「…うん」
「何か問題でもあるの?」
別に私を疑っている!って感じじゃなくて。
単純にそう聞いてるだけだって思う。
それが直人の優しさだって分かってる。
「仕事しずらくなるかな…って。そういう目で見る人もいるかもだし」
「あ――まぁ確かにな。元々俺等普通に仲良かったから今までと変わらないだろうしね。いいよそれで!でも…」
フワリと私の頬に手を添えるとニコっと八重歯を見せて言葉を続けた。
「聞かれたら答えるからな!」
「…うん」
ズルイと思う。
だけど直人に嫌われたくないって気持ちだけだったんだ、この時は。