▼ 欲張り1
「美月…うまくいったかなぁ…」
「…え、美月ちゃんって広臣のこと好きだったの?」
「うん…。そうなんだって!しかも、入社してすぐ臣くん美月に告ってたみたいだよ〜。でも何でかみんなに騒がれちゃってる臣くんが嫌で、”他に気になる人がいる”って断っちゃって…ずっと後悔してたんだって…」
私の言葉に顔を歪ませる直人。
言ってることは分かるけど、理解はできない…って、まるでそう言いたそうな顔で。
その顔の如く、首を軽く傾げたままグラスを取って一口飲むと私を見て言ったんだ。
「女って分かんねぇ…」
思わず噴き出しそうになる言葉に私は堪えてクスっと笑った。
そして直人の肩に手を乗せて耳元に顔を寄せるとこう続けた。
「私のことも分かんない?」
お酒が入ってなきゃ絶対に言えないような、できないようなこの行動であり、台詞。
でも今の私は…私達は…―――言うなれば、恋の一線の上に乗っかっている状態。
直人の気持ちが私にあるって自信までついてきているからこんな言葉が言えたんだって。
パチって瞬きを繰り返す直人は真っ直ぐに私を見つめてほんの少し余裕そうに笑みを浮かべた。
あ、この顔好き。
自信に満ちた直人の顔、仕事でもよく見ることのあるその顔…。
仕事に対してすごく真面目で努力家な直人はプライベートはおちゃらけていることが多い。
私の気持ちに気づいているからだって思うけど、やっぱり好きな人にはある程度の余裕と自信を持ち揃えていて貰いたいものだ。
「分かってるつもりだけど」
「ならよかった」
いつもより少し強めのお酒をグビっと一口飲んで直人と視線を絡ませた。
ジャズなんてかかちゃってるこのバーのカウンターで、大人気取って静かに二人で飲むことなんてぶっちゃけ初めての私達。
今日この後、どうなるんだろうって想像するとほんのり身体が熱くなる。
「もう一杯飲む?」
最後の一口をとっくに飲み終えていた直人は、私が飲み終わるのを待っていてくれて、それと同時にそんな言葉を言われた。
「もうお腹いっぱい…」
本当は胸がいっぱい…。
こうして直人と二人で飲んでること自体、浮かれそうになる。
でも恥ずかしいから言わない。
それでもそういう気持ち、少しでも直人に伝わればいいのに…――って少し我儘なことを思った。
「じゃあさ…」
そう言った直人、不意にカウンターの上に投げ出された私の手を緩く握った。
ドキっと最高潮気持ちが溢れてしまいそうで、握られた手をジッと見つめた。
チャリ…って反対の手から出てきた鍵にドクンっと胸が高鳴った。
「え、直人…」
「上に部屋とってある…移動しねぇ?」
…うっそ、すごい展開!
トレンディードラマも吃驚だ。