SHORT U | ナノ

 Rainy love 1

「これ、一緒に行かない?」


会社の飲み会の帰りだった。

街の掲示板に貼ってあったチラシの【花火大会】を指差して私を見ている眞木さん。

上司だけど先輩って感じで、口鬚がよく似合ってる大人の男性。

柔らかい喋り方と雰囲気は私達女子社員の中でも人気で。

くわえて喋りやすい空気を出している眞木さんは、いつだって私の憧れだった。

そんな眞木さん達がこの度の人事で昇任して部署が異動になることに。

今日はそのお疲れ様も込めた送別会だった。

送別…といっても同じ社内にはいるから全く会えなくなるってことでもなく。

単にうちの社員は酒好きが多くて、ことあるごとにこうして飲み会を開いている。


「…え?」

「ユヅキちゃんの浴衣姿見たいな…」


目を細めてそう言う眞木さん…ズルイんだから。

ここで「NO」を言う人がいたら見てみたいぐらい。

見つめる眞木さんは確かに酔ってる。

浴びるようにお酒を飲んでいたし。

かくいう私も酔っ払いなのは否めない。

でも今この言葉が嘘だなんて思いたくない。

朝起きてもしも眞木さんが忘れていたとしたら、私から誘ってやるんだから!


「行きます!眞木さんも浴衣着てくださいよ?」

「俺も?」

「そうです」

「分かった!じゃ二人で浴衣デートね」


ニュイって私の目の前に眞木さんの右手の小指が差し出されてそこに自分のを絡めた。

子供のころによくやった指切りげんまん。

嘘ついたら針千本飲ます…っていう約束。

約束をした後、普通は指切った…って離すんだけど、眞木さんはそのまま大きな手で私の手をスッと掴んだまま下におろす。

…―――期待、してもいいのかな?

眞木さん私、冗談通じないよ?

そうやって花火大会誘ったのって、私だけって思っていいんだよね?

心の中の問いかけは当たり前に口に出せなくて。

そんな思いを込めて眞木さんを見つめると同じように私を見つめ返してくれる。

…どうしよう、本気になりそう…


「晴れるといいね〜」


眞木さんの言葉に「はい」元気よく頷いたんだ。


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