▼ ラブレター 1
「3組のサエちゃんから…」
「…は?」
生まれてこのかた、ラブレターなんて一度も貰ったことはないものの、ラブレターの橋渡しをこんなにするハメになろうとは。
何故か睨まれてるあたしの方が溜息ぐらいつきたいよーってんだぁ。
全く何が悲しくてこの男に毎度毎度ラブレターを渡さないといけないんだよ。
つーか自分で渡せよラブレターぐらい。
そもそもラブレターってくらいだから告白でしょ。
それを人に頼むなんておかしい。
そんなの絶対間違ってる!!!
…脳内ではこんなことを思いながらもあたしの手はスッと机を椅子にしてゲータレードのパックをストローで飲んでる直人へと伸びている。
なかなか受け取ろうとしない直人に無理やりラブレターを押し付けてくるりと反転した。
同じクラスで級長ではたから見たら仲良しのあたしと直人。
家も近くて幼稚園からずっと一緒に過ごしてきた。
高校に入ってダンス部の大会で優勝した直人は一気に女子からモテルようになって、そこで借り出されたのがあたし。
ことあるごとに呼び出されて直人のことを色々と聞かれる。
たかが優勝したぐらいでモテてる直人。
優勝しなかったらモテていなかったかなんて分からないけど、小さい頃から一緒だったあたしの心に直人以外の人が入り込む隙間なんて1ミリもなかった。
「いらねぇよ」
「あたしに言われても困るよ」
危うく付き返されそうになったのを止めた。
ジッとあたしを見つめる直人の瞳は何時にも増して真っ直ぐで。
「断れよなーユヅキー」
そう言いながらも直人は毎回ちゃんとラブレターを受け取っていた。
あの手紙には一体何をどう書いてあるのだろうか。
それを読んで直人はどう思うんだろう。
モテ期絶好調の直人だけど、今だ特定の彼女はいなくて、あたしはそれが内心嬉しかった。