▼ 平成の彦星 1
今年の七夕も曇りの予報です…
「えっ!?」
テレビから聞こえた天気予報のお姉さんの言葉に思わず声をあげた。
ベッドの隣、生まれたての姿で眠そうに私を引き寄せる彼、ナオト。
見た目以上にたくましい腕が私をギュッと抱いて胸の奥がキュンとする。
くるりと反転して顔をナオトに向けると、ちょっとむくんだ顔でニコッと微笑んだ。
「なにぃ?」
まだ少し寝惚けた顔を私にすり寄せて甘えるナオトの背中に腕を回して私も抱きしめると「んう〜」って甘い声が零れた。
「七夕…曇りだって。毎年曇りだよね。もう何年逢えてないんだろう、空の二人は…」
「あー。そうだな。ユヅキならどうする?」
「え?」
「俺と何年も逢えなかったら…」
ほんのり口端を緩ませてそんな言葉を飛ばすナオトは私の答えに自信があるのかもしれない。
でも、何年もナオトと逢えないなんてそんなの、有り得ないでしょ。
「別れるよ。もっと傍にいてくれる人を見つける!」
サラリとそう言うとギョッとした顔で思わず身体ごと軽く起こして私を見る。
肩肘ついてマジマジと私を見つめるその顔は世界で一番愛おしくて愛する人。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
さも、おかしいでしょ!って顔で。
そんなナオトが可笑しくて、クスッて笑ってナオトの上にぎゅっと身体を乗せた。
しっかり私を抱きとめてくれながらも、顔にかかった髪を指でどかして視線を合わせるナオト。
あきらかに不満顔。
「俺と別れるって!?」
と思ったらちょっと本気で怒っていて。
それが余計に可笑しくて。
「だって何年も逢えないなんて耐えられないもん。じゃあナオトのいる世界へ私を連れてってくれる?」
「あったりめーだろ!つーか何年も逢えない環境なんて絶対ぇ作らねぇし!」
物凄い堂々と言ってるけど…
「でもそれじゃ一年に一度の奇跡じゃなくなっちゃうねぇ…」
「いんだよ!平成の彦星は逢いに来る!むしろ迎えに行く!それが俺よ!」
ありゃ。
ナオトが平成の彦星になってる!
まぁ私にとってはナオトは彦星であり、サンタクロースであり、いつだって私を幸せにする全てのHEROなんだって思うけど。
ムキになってるナオトがどうにも可愛くて。
「じゃあ平成の織姫はどこで待ってたらいい?」
「こーこ」
ポスって自分の胸を叩いてすぐに私を抱き寄せた。
そのまま私をベッドに組み敷いてニヤッと笑う。
「俺を信じて待ってればいつでも逢いに行く」
緩む頬が直らないくらい甘い台詞をくれたナオトは、翌日会社で地方への出張を言い渡された。