▼ゲームのようにリセットができたなら(吉野順平)

小説タイトルは浮世の随に様からお借りしております。

もしも、目の前にリセットボタンがあったならと名前は思う。
それはゲームで行き詰った時や嫌な展開になった時に簡単にリセットできる。そんな簡単なボタン。
それがあったら、今目の前にあるこの光景も無くなるはずなのに、と名前は思っていた。
幼い頃に自分が引っ越してからから会えなくなってしまった仲の良かった彼。
それでも、どちらとも言わずに手紙を書いてお互いの事を伝えられていた。
他愛ない日常、学校の事や友人や家族の事…色んな話題を便箋に書いて相手に送って
相手からの手紙に返事を書いて、また来る手紙を心待ちにしていたはずなのに。

それなのに、どうして彼は。

「順平」
名前を呼んで、その『人間だったもの』に触れる。
冷たくて、固い感触が名前の手に伝わって来る。
生きているという証はもうすでに感じられない、感じられるわけがない。
それに気づいた瞬間、名前の頭は理解してしまう。
"これは本当に現実なのだ"と。
「あっ…?」
気が付けば名前はその場に崩れ落ちるようにして座っていた。
立ち上がろうにも力が抜けてしまい上手くいかない。
それどころか、目の前が少しずつ真っ暗になる感覚が名前を襲う
それと同時に涙がボロボロと名前の頬を伝い落ちていく。
あぁ、泣いているのだと気づいたころには名前は声を上げて泣いていた。
「あぁ…あぁぁぁぁぁぁぁ!!」
こんな現実嘘だ、と叫びたかった。
自分は悪い夢を見てるんだ、きっと暫くしたら覚めるんだ。
きっと目が覚めたら順平が笑って「名前ねぇ」って呼んでくれるはず。
そしたら手紙で書けなかったことを今度は話せるはずなんだ、と。
そう思いたくて思い込みたくて何度も何度もそう考えるけれど。
目の前にある現実はそれすらも許さない。

「…なんで、なんで、順平…!!」
そう問いかけても答えてくれる声はもうない。
ただただ名前はそこで一人泣き続けることしかできなった。
もう二度と話すことも会う事も触れることもできない彼の名前を何度も呼びながら

「お願いだから…返事してよ…順平!!」
そう叫んでいた。




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