目を開けると綺麗な顔があった。

「うわああああっ!?」

 直ぐさま手を握りしめて相手の顔へと向かわせるが、それは呆気なく避けられ、綺麗な顔は離れていった。痛みを誤魔化して起き上がると得体の知れない綺麗な顔の男を睨む。男は目尻を下げて笑った。

「やーっと起きたか。全く、雫と滴はやり過ぎなんだからなあ」

 サラサラの金髪をガシガシと掻きながら呆れたように肩を竦めた男は俺が寝ていたソファーの向かいの如何にも偉い人が座るような椅子へと座り、デスクに頬杖をついた。流れるような美麗な動作にボーっとしていた俺は次の言葉に我に返る。

「さて、取り敢えず自己紹介かな。俺はノアイ」
「……っ、テメェの名前なんかどうでもいいんだよ! ここはどこだ!」

 周りを見てもどう考えても俺の知っているところではない。ズギズキとそこに心臓ができたように脈打つ頭に眉を顰めながら(眉を顰めた理由はそれだけじゃねえけど)立ち上がる。

「うんまあ落ち着いて」

 にこやかに笑って。
 頬を掠った何かはそのまま通り過ぎてドス、と鈍い音を立てる。恐る恐る後ろを向くと壁にはボールペンのような物が深く刺さっていた。次に痛みが走ったとこへ手を滑らせた。ヌメリと液体が手に絡み入った。こいつ、何時の間に投げた? ペンなんか持ってなかった筈だ。どこから出したんだ…? 頭は混乱するばかりだ。

「……テメェ」
「ああごめん、傷付いちゃったね。……で、話は聞く気になったのかな?」