(side:淳也)

「お前、名前呼ばねえよな」

 休日。我が物顔でベッドに寝転がっているクソ会長は思い出したように呟いた。俺は雑誌から顔を上げ、眉を顰める。

「は?」
「名前呼べよ」

 突然何を言い出すのか。くだらなさ過ぎて放置しようかと思ったが、後で面倒なことになりそうなので仕方なく名を呼ぶ。

「…久賀」
「直人」

 思わず、はあ、と気の抜けた声が出る。すると不満そうな顔で再び直人、と自分の名前を言った。

「直人って呼べよ」
「……なんで」
「雨谷に恋人なのに苗字呼びなんですか、って言われたからな」

 なんで副会長は余計なことばかり言うんだ。あれで悪気がないのだから質が悪い。

「別にいいだろ、呼び名なんて」
「良くねえ。呼べ」

 むすっとした顔で一蹴され、ひくりと口が引き攣った。

「じゃあテメェが呼べよ。それから考え――」
「淳也」

 言い終わらない内にさらっと呼ばれ、俺はあほみたいに口を開ける。

「淳也。ほら、言っただろ」

 にや、と笑うクソ会長に口を歪める。…いいじゃねえか、呼んでやるよ。ただ、名前を口にするだけだ。俺はクソ会長を見つめ、口を開いた。

「な……」

 言葉が詰まる。なおと、と呼ぶだけなのに。三文字だけなのに。いざ呼ぼうとすると、口が思うように動かない。