本編ネタバレ注意
本編を読んだ後にお読みください。














(side:直人)

「そういえば、あの話は…」

 つい先日恋人になったばかりのこの男、中村淳也の部屋でのんびりしていた時のこと。中村は少しためらいがちに俺を見た。なんのことだと思ったのは数秒で、すぐに理解した。しかし普通に話すのはつまらないので、わざと惚けてみた。

「なんのことだ?」
「……だから、その、付き合ったら話してくれるっつー…」

 小声で恥ずかしそうに言う中村に笑みが漏れる。「ああ、そのことな」白々しくそう言えば、中村からぎろりと睨まれた。そういう顔すっと虐めたくなるからやめろ。

「戸叶が入院していた時期があるだろ。小学生の時だ」
「ああ、あるな」
「その病院って、平澤病院だろ」

 中村は無言で頷く。そして、眉を顰めた。何で知っているのかと思っているんだろう。俺は昔を思い出して、目を細める。

「俺も入院してたんだよ」
「…は? まじで?」

 目を丸くして驚いている中村を可愛いなと思いつつ、まったく記憶にないことに腹立たしさを感じた。

「お前は戸叶のことしか見てなかったからな」
「…そう、なのか…。何で入院してたんだ?」
「体が弱かったんでな」
「え!?」

 中村が目を見開く。信じられないようだ。まあ、そうだろうな。つーか納得された方が嫌だ。
 俺も戸叶も体が弱いのは一緒なのに、中村は戸叶のことばかりだった。だから俺はあいつのことが昔から嫌いだし、羨ましくもあった。