「俺がお前を好きになった経緯は追々話す。とりあえず、俺がお前のこと好きだってこと、ちゃんと理解しとけよ」

 ふ、と笑みを浮かべながら言葉を発するクソ会長の声や顔がいつもより優しく感じ、顔が熱くなる。しかし、あることを思い出し、浮ついた気分が下がる。
 ――翔太は、どうするんだ。どうなるんだよ、あいつの気持ちは。それに……。俺は床に視線を落とした。

「……気持ちは、分かった。でも、付き合うことはできない」
「あ? なんだって? 良く聞こえねえな」

 わざとらしく言うクソ会長に、ひく、と頬が引き攣る。だから、と声を大きくして言おうとしたが、その前にクソ会長が口を開く。

「付き合えねえのは、戸叶の体のことがあるからか?」
「っ……」

 どきりとする。クソ会長は溜息を吐いて、腕を組んだ。

「お前は同情して、戸叶と付き合い続けるのか」
「…それは」
「ちゃんと話し合えよ。――で、俺んとこへ来い」

 クソ会長は俺に手を伸ばす。動けず、その手をじっと見ていると、ぐしゃりと髪を乱暴で撫でられた。驚いて目を瞬かせる。クソ会長は口角を上げながら、髪を摘まんだ。

「…傷んでんな」
「は、……う、うっせーよ」

 俺はクソ会長の手を払う。目を細め、俺を見つめて来るクソ会長に心臓が跳ねる。
 な、なんだ。何でこんなに甘い空気になってるんだ。なんだか心臓がむずむずするっつーか、なんつーか。やっぱり日向といる時とは違う。
 コンコン、とドアがノックされる。ハッとして慌ててクソ会長から距離を取ると、返事をした。

「あの、えーと」
「? どうした?」

 歯切れの悪い言葉に眉を顰める。ドアを開けようと、近づいた。

「……戸叶が、来たんだけど」

 ドアノブに伸ばした手が止まる。――日向が、来ている?