「お、俺の家だっつの……!」
「はあ? …ハッ、すっげぇ貧民なんだな」
「んなことねえ…っつか、退け、っよ!」
「お?」

 力をありったけ込めて背中を押すと、興味深そうな声と共に重力が消えた。やっと起きあがると艶が目立つ漆黒の髪、全身真っ黒の服を身に纏った絶世の美青年という表現がびったり合うほどの男前が視界に入った。整いすぎて何か土下座したい。いやしねえけどさ。え、誰こいつ。

「ふん、なかなか面白いな。俺様に楯突く奴がまだいたとは」
「は? いや、てか…お前誰」
「は?」
「は?」
「テメェ、俺様のことを知らねェのか?」
「知る訳ねえだろ!?」
「…テメェどこのもんだ? アストラムんとこか?」
「あすとらむ…。どこの国だ? つか地名?」
「……は?」

 信じられないと目を見開く男前を前に、俺は首を傾げるしかない。あすと…なんとかってのはもしかして誰もが知ってる地名なのか? いや、でも誰もが知ってる、といやあよく耳にするロンドンとかパリとかであって、あすとなんとかってやつは聞いたことがないぞ。どこだよそれ。

「アストラムも俺様も知らない?」
 何を深く考えて、ハッと何かに閃いたような顔をすると男は周りを見渡す。今度は何だよ…。

「この小屋は…――見たことのない造りだ。おい、ここは一体どこだ?」

 小屋!?

「だから俺ん家だって!」
「それはさっき聞いただろ。ここは俺様の住んでいた場所と違うみてェだ。国名は何だ」
「日本だ」
「ニホン?」

 どこだそれはと物語っている訝しげな視線が突き刺さる。日本知らねえのか? ……ん? いや、可笑しくないか。こいつ日本語喋ってるじゃん。……というかこいつどうやって俺の部屋に? 窓は閉まってるしドアも――そこでハッとしてテレビを見る。未だに奇怪な音を発しているそれ。待てよ、俺はテレビから出てきた手に掴まれて…引っ張ったら床に叩きつけられて。ある過程が頭を掠める。恐る恐るゲームのケースを見てみると、声にならない悲鳴が出た。どう見ても目の前と同じ顔だ。しかも真ん中に写ってる二人の内一人ってことは…まさか。