異様に長く感じた朝食を終え、日向を部屋に送ってから教室へと向かった。その途中、絡まれた。奴らはニヤニヤと笑みを浮かべて俺を囲んだ。面倒臭ぇ…。溜息を吐くと、今度は眉を吊り上げて顔を怒りに染めた。

「テメェ!」
「うぜえんだよ!」

 …五人か。怪我はするだろうが、倒せない人数ではない。こいつら雑魚っぽいし。ささっと片付けてしまおう。俺は姿勢を低くして、拳を握る。

「――おい」

 後ろから、聞き覚えのある声が飛んできた。俺は背を向けたままだったが、誰だか瞬時に理解し、顔を歪める。雑魚たちも、俺の後ろを見てげっという顔をする。

「久賀直人…!」
「何してんだ、テメェらは」

 久賀直人――クソ会長の威圧感のある低い声に驚き、俺は振り向いた。無表情だったが、ぎらぎらとした瞳でこっちを睨んでいた。怒っている…? 恐怖や焦りの表情を浮かべる雑魚たちの横で、俺は呆然としていた。奴は絶対この状況を嘲笑っていると思ったのに、何で。
 クソ会長がすっと目を細め、俺を見る。

「ッチ、くそ、お前ら、逃げるぞ…!」
「覚えてろ!」

 覚えてろって、覚えてるわけねえだろ馬鹿か。雑魚が雑魚らしく逃げていく。その時にかけられた言葉に対し、冷静にツッコミを入れた。しかし、体が動かない。蛇に睨まれた蛙はこんな気持ちなんだろう。

「……クソ犬」

 忌々しげに呟き、舌打ちをする。次いで溜息を吐いて言った。「絡まれてんじゃねえよ」
 面倒臭そうに言われた言葉に一瞬だけちくりと胸が痛む。俺は眉を顰めて、視線を落とした。そしてその場から去ろうと、足を踏み出す。

「おい」
「…なんだよ」
「助けてやったのに礼はなしか?」
「……助けてやった、だぁ?」

 助けられた覚えはない。このまま無視したいが、奴のことだ。俺が何か言うまでどこにも行かせないだろう。うぜえ…。

「助けてくれなんて頼んじゃいない」
「そうか。で、礼は?」
「……ドーモ、タスカリマシタ」

 棒読みで言えば、ふ、と鼻で笑ったのが聞こえた。振り返ると、口角を上げて俺を見ていた。馬鹿にしたような笑みじゃなくて、普通に笑っているその顔を見てしまって、俺は心の中でくそ、と呟いた。