(side:紫炎)


 空気が重たい。僕は溜息を吐きたくなるのをぐっと抑えてチラリと会長を見る。原因は奴だ。
 昼食はいつも翔太くんと一緒だから機嫌がいいはずなのに…何かあったのだろうか? 僕は書類処理に追われてここ数日食堂には行ってないから状況が掴めない。書記の空音はどこかに行ってるし、いや、いたとしても僕に教えてくれることはないだろうけど。
 とにかく、会長は食堂に行ってから機嫌が悪くなった。だから空気が悪い。僕は耐えきれなくなって小さな声で呼びかけてみた。聞こえなかったのか、或いは意図的に答えなかったのか、会長は何の反応もせずにコーヒーを飲んでいる。眉間に皺を深く刻んで。

「あの」

 今度は先ほどよりも大きな声を出した。少し考えてみれば、小さな声でも異様に静かなのだから、聞こえていると分かったのに。僕は諦めずに声をかけてしまったのだ。
 会長はちらと僕を一瞥してカップを置くと、大きく舌打ちした。びくりと震える。

「んだよ」

 苛立ちを含んだ低い声が耳に届く。

「あの、何かあったんですか?」

 その瞬間、鋭い目がこっちに向けられる。しかし、数秒後何事もなかったように逸らされた。あまりに怖くて一瞬息が止まった。

「別に」

 何もない訳ないだろう。僕はそう思ったが、これ以上質問してもいいことは起こらない。諦めよう。気になるけど。
 それから何分経っただろうか。携帯が突然震えだした。首を傾げて手に取ると、開く。メールだ。僕にメールする人…翔太くん? それでも珍しいなと思って開いて見ると、知らないアドレス。しかし、件名を見て目を瞠った。

「え!?」

 な、中村くん!? え!?

「おい、うっせえぞ」
「す、すみません」

 会長にギロリと睨まれ、僕は縮こまった。溜息を吐いて視線を外されてからもう一度よく画面を見る。中村淳也、と書かれている。ということはこれ、もしかして中村くんのアドレス…? ドキドキしながら内容を見る。