ゴトン、と鈍い音が俺の耳に届く。目の前には凹んだテレビゲーム機本体と不自然に歪んだコントローラー。やべぇ、思い切りやっちまった。青ざめた俺は恐る恐る本体に手をやった。撫でて直るはずもなく、俺は溜息を吐いて項垂れる。テレビ画面からはピーやらジーやら不可解な音が放出されている。
 何でこんなことになったのかというと、ことの発端は朝だ。朝起きて、歯磨いて朝食食べてニュースを見る。ここまではいつも通りだ。因みに俺は一人暮らしで現在進行形でフリーターだ。今日は確かバイトが何も入ってなかったなとのんびりしていると、宅配が届いた。しかし、俺は何も頼んだ覚えがない。間違いではないかと確認したが確かにここであってると無理矢理受け取らされたのだ。仕方なく中身を見てみるとゲーム機と何かのソフトが入っていた。やはり見覚えがない。俺はゲームやらないし、こんなもの頼むはずがない。だが、受け取ったものは仕方ない。今日は暇だし少しやってみよう。思い立ったが吉日、と少し柄にもなくワクワクしながらコンセントを繋ぐ。そういえばとソフトを見てみると見たこともないゲームだ。CMでもみたことないし、ゲーム通の友人からも聞いたことがない。しかもそれは明らかに男がやるゲームではなさそうだ。美形と分類される男たちがこっちを見て笑んでいる表紙を見ながらげんなりする。そういえば友人宅で似たようなものを見せられた気がする。けどそれは女たちが沢山いて恋愛するってやつで……。あれ、まさかこれは女性向けのゲームではないだろうか。そしてこの無駄に煌びやかな男たちと恋愛するっていう…。いやいやないだろ普通に考えて。
 ……まあもう準備しちまったし…暇潰しにはなるだろうし……やってみるか? 一回だけやって、売るか何かしよう。俺はうんうんと頷き、ディスクを入れた。説明書は…めんどいしいいや。
 電源をつけて付属されていたコントローラーを握る。暫くして会社のロゴなどがでてき、それをボタンを押してスキップするとタイトル画面が出てきた。「光陰の剣」これがゲームの名前か? 普通のRPGにありそうな感じだ。
 最初からを押すとプロローグ的なものが始まった。国には魔王と王子がいて、魔王は王子を、王子は魔王をそれぞれ倒すために目論んでいて今にも戦争が起こりそうな状況だという。主人公はしがない町娘で、いつものように家事をしていると一通の手紙が落ちているのを見つけた。宛名も何もないそれに不思議に思い、開くとたった一文だけ書いてあった。
 "君は魔王と王子、どっちの味方か"そして選択画面へと入った。きっと魔王を選べば魔王と側近やら関係してくる人物を攻略できるのだろう。王子も然り。別に俺はどっちでもいいんだが、……ん? 俺は首を傾げる。文字の選択肢ではなく、バックに影絵の魔王、王子のイラストがあってカーソルを合わせると絵が出てくるという形式……は、まあいいんだが、それぞれの間に星の中にハートマークがある絵があった。しかもそれは背景の絵でも何でもなくて、選択できるみたいだ。好奇心で一杯になった俺は迷いなくそれを押した。しかし、シーンとなって動かないゲーム画面。ボタンを押しても何も起こらない。これはバグって奴か? いきなり?
 時間が経つにつれてイライラしてきた俺は思わずコントローラーを投げて、それが運悪く本体に当たった――ということだ。