「おう、おかえり」

 帰ってくると、田口がリビングのソファに寝転んでいた。先程起きたのだろうか、少し眠そうに見える。ああ、と言ってテーブルの上に袋を置く。パッと目を輝かせて勢い良く起き上がった田口にフレンチトーストとバターロールを渡す。一瞬フレンチトーストを見て顔を引き攣らせたのは見なかったことにしよう。
 田口の座っているソファの向かい側に腰を下ろし、手を合わせる。俺はメロンパンの袋を開けて、期待を込めながら齧り付く。……ん? これは…。田口は徐々に顔を顰める俺を不思議そうに見た。

「どうした?」
「……これ、メロンの味しねえぞ」
「は?」

 メロンパンを指差し、ぶすくれたまま言えば、何を言っているんだというような顔でこっちを見た。

「そりゃしねえだろ」
「…だって、これメロンパンだろ」
「いや、メロンパンだけどよ」
「クリームパンは中にカスタード、焼きそばパンは中に焼きそば、じゃあなんでこれにはメロンが入ってねえんだ!」
「……えーと、そりゃ最もな言葉だけど、確かメロンパンってその模様から名付けられたんだぜ」

 フレンチトーストを一口食べた後、苦笑しながら言われ、ビシャーン! と俺の体に雷が落ちる。

「な、なんだって…」

 騙された、と憎々しげに呟くと、顔怖いぞと引き攣り顔で言われた。何でそんな紛らわしい名前付けるんだよ期待返せよ…! しかも田口が知ってて俺が知らないとか屈辱だ。
 …まあいい。普通に旨いし。メロンじゃねえけど。

「お前、今日はどうする?」

 何とも言いようのない気持ちで食べ進めていると、思い出したように田口が漏らす。今日は土曜日で、授業は午前中だけだ。しかしそれは一般クラスだけらしく、Zクラスは丸々休みなんだそうだ。勉強することも考えたが、少し考えて口を開く。

「生徒会室に行く」
「はあ? マジで?」

 ぐしゃ、と空になった袋が音を立てて潰れる。俺は黙って頷いた。実は先日、井手原に土曜日の午前中は役員が一人だけしか来ないということを聞いたのだ。しかも、仕事を任せて出て行くらしい。世津や峯岸には急かされてはいないが、あまり先延ばしにしていると何をされるか分からない。