(side:誠春)

 カレーが運ばれてきて、それを無言で食べていると、ポケットの中のスマホが震えた。俺はスプーンを置いてスマホを取り出す。表示された名前に眉を顰めた。高槻透。もう気にする必要はないと言ったのに、どうして連絡をしてくるのか。――もしかして、家のことだろうか? それなら父親から掛かってくるはずだが。

「出ねえのか?」
「……いや…」

 俺は暫しスマホを見つめて、結局出ることにした。

『もしもし、俺だ、高槻だ』
「知ってる。……なんの用だよ」

 思いの外冷めた声が出てしまい、後悔した。別に俺は高槻を傷つけたいわけじゃない。ただでさえ風紀委員長で忙しいのに、俺のことで色々迷惑を掛けてしまうのはもう嫌なだけだ。

『っ……。井手原が、風紀室に来て…』
「井手原…?」

 聞き覚えのない名前に首を傾げる。記憶を掘り返しても、そんな名前の知り合いはいなかった。

『会長親衛隊隊長だ。生徒会室で忘れ物を見つけたから渡したいと言いに来た』
「はあ?」

 何故そうなるのか分からず素っ頓狂な声が出た。親衛隊の隊長なんて、嫌われていた記憶しかない。忘れ物をしていたとしてもそれに気づかなかったということは、それほど重要なものではないということだ。それに、どうして親衛隊が生徒会室に入れているんだ…?
 まさかあいつらまだ仕事やってないのかよ。親衛隊にさせるなんてマジで落ちぶれたもんだな。俺はそこでハッと気づく。これは使えるんじゃないか?

『誠春?』
「あ――いや、なんでもねえ。で、その、井手原っつー奴が返しに来んの? Zクラスまで?」

 まあ、風紀室に行ったってことは一人じゃ来ないんだろうけど。俺の予想は正しく、高槻はいや、と否定の言葉を口にした。

『流石に一人では危ないということは本人も分かっているらしく、付いてきてほしいと言われた』
「ふーん…」

 だからなんだという話だ。返しに行くから相手をしろということか? 俺は水の入ったコップを手に取り、口に含む。

『俺が行くことになった』
「ブッ」
「ど、どうした社!?」

 水を吹き出しかけて慌てて飲み込む。目を見開いて驚いている田口が目に入った。
 ――高槻が来る、だって…?

「どうしてお前が」
『あの時の言葉が納得できないからだ。…それで、今はどこにいる?』

 もしかして食堂か、と言われ黙る。ここに高槻が来たら、それこそどうなるか。