ドアを開けると、呆れ顔のやなっちに迎えられた。どうやら少し遅れてしまったらしい。席に座れと急かしてくるやなっちに返事を返して教室内を見ると、あらあら何とも面白い状況じゃないの。まさか頭の横の席に座るとは、社クンてば結構度胸あるじゃないの。で、社クンの横にたぐっちねえ。たぐっちってば、情でも湧いちゃったのかな? 顔が緩むのを抑えられなくてにまにまと笑みを浮かべると、社クンが物凄く嫌そうな目でこっちを見た。そういう反応が面白いってことに気づいてないんだろうな。

「や〜、社クンじゃないのー」

 勿論俺は、社クンたちの近くに寄って行った。そして社クンの顔をじっと観察する。うんうん、やっぱりあの生徒手帳に載ってる写真とは全然違うねえ。……今は変装してないってことは不良クラスだから家のことバレないと思ったんだろうか。確かに俺たちはパーティーに出るような奴らじゃないしね。八代は特別有名ではないし名前でさえ知らない奴もいそうだ。
 居心地悪そうに目を逸らした社クンに話しかけようとした時、後ろで溜息の音が聞こえた。

「おい、世津。前向け」

 何か話しかけようとするといっつも邪魔されるなあ。でもやなっち無視すると後で面倒なことになるから大人しく従っとこ。

「はいはーい」

 くるっと正面を向いて、俺は頬杖を付いた。




 うっわ〜、朝から嫌な顔見ちゃったなあ。俺は教壇に立ったセンコーを見て小さく舌打ちする。名前なんて知らない。俺たちが名前をちゃんと覚えてるのはやなっちだけだから。
 視界に入れたくないと思って振り向くと、社クンの机に置かれた物が目に入った。

「うわ〜社クンてばそんなの持ってきてんだ。えらーい」
「おい、何だそれ?」

 たぐっち、何だそれってどう見ても教科書でしょ。俺と同じことを思ってるのか、社クンも呆れた顔をしている。

「教科書だ」
「あー、そういえばんなもんあったな」

 あ、更に呆れた表情になった。たぐっちが教科書開いたとこなんて見たことないなあ、そういえば。まあ俺も開いたことはあるにしても勉強なんてまったくしてないんだけどさ。