俺と世津を交互に何度も見て、訝しげな顔をする。世津は肩を竦めて笑みを漏らした。

「タイムオーバーかぁ」
「は?」
「じゃあ、俺はもう行くねー。バイバイ、たぐっち、社クン」

 ひらひらと手を振ってゆったりとした歩みで去って行く背中を俺はじっと見つめた。…何を言うつもりだったんだろうか。戸田と…何か関係があるのか?

「なんだぁ? あいつ」

 隣で不思議そうな声を上げる同室者に考える気が失せて、小さく溜息を吐いた。戸田と世津がどういう関係であろうと、俺には関係ないしどうでもいい。俺は一応仕事仲間だったあいつの顔を思い出し、直ぐさま黒で塗り潰した。




 教室に戻ると、殆どの生徒がいなかった。峯岸も、先に食堂から去った筈の世津もいない。同室者は特に気にした風もなく、隣の席に座る。その体は黒板ではなく俺の方に向いている。

「いつもこうなのか?」
「こうって?」
「…教室」

 ぐるりと周りを見回せば、何人かの不良と目が合い物凄く睨まれた。あいつら、ずっとこっち見てて飽きねえのかな。

「まー、こんな感じだな。峯岸さんが一日中いるとこなんて見たことねーし、世津も教室にはあんま来ねえな」

 おい、出席日数足りねえだろそれ。呆れた目で同室者を見ると、焦ったように言葉を続けた。

「お、俺はちゃんと来てるからな!? これでも皆勤目指してたこともあるんだぜ」

 同室者が遅れて来たのを思い出し、絶対長く続かなかっただろと思った。

「それいつまで続いたの?」
「……い、一週間」

 …案の定か。いや、他の奴と比べたら全然マシだな。……でも勉強しねえなら来るだけ無駄なんじゃねえか? てかこいつら勉強全くしてねえの? あと教師ちゃんと来いよ。

「でも…俺ちゃんと来るわ。お前のこと心配だしよ」
「心配って…」

 何でお前が、と思いながらも少し嬉しく感じた。今まで敵だらけだった所為か、何か裏がありそうだとも思ってしまう反面、これは嘘じゃないと確信している自分がいる。

「――…サンキュ」
「……え」

 笑みを浮かべて礼を告げれば、ぽかんと間抜けな顔をする同室者。…何だよその顔は。少し恥ずかしくなって顔を背けたので、同室者の顔が赤くなっているのに気づくことはなかった。