人気投票一位ってのは…凄いな。俺は大量のチョコを抱えながらうっとりとしていた。勿論周りに誰もいないのを確認してからな。
 今日はバレンタインデーということで、学園中が浮き足立っていた。かくいう俺もその一人。もう楽しみで楽しみで仕方なかった。当然沢山貰えると思っていた俺は、十夜の一言にあることを気づかされた。

『甘い物嫌いなのに貰って大丈夫なのか? いや、そもそも貰えるのか?』

 確かにそうだ。盲点だった。俺はこのままじゃ一つも貰えないかもしれないと青ざめ、早速昨日行動に出た。バレンタインデーの日だけは、お前らのチョコ貰ってやらんでもないぜ、と言ったのだ。ドヤ顔のオプション付きで。
 するとどうだろう。大量のチョコがあるではないか! そのチョコの殆どがビターってことが不満だが、それは多分俺の為だろうから文句は言えない。取り敢えず、早く帰ってチョコ食べるか!

「…へえ、中々貰ってんじゃねえか」

 すぐ後ろで声がし、びくりと肩を震わせる。よりにもよって、一番会いたくない奴に見つかってしまった…!

「…んだよ、相楽」
「いいや? …お前って、甘ぇもん嫌いじゃなかったか?」
「今日は特別だ」

 ふん、と鼻で笑って見せると、意外そうに俺を見る相楽。

「な、何だよその顔」
「お前がそういう優しさを持っているとはな」
「……はあ? 俺はいつも優しいだろうが」
「どの口が言ってやがる」

 ぐい、と頬を抓られ驚きに目を見開く。な、なんで頬を抓る!?

「は、はにゃへ!」

 じっと無表情で見つめられ、ドキドキとした緊張感が俺を占める。…な、なんか顔近づいてきてる気がするんだけど…!?

「…ん? お前、もうチョコ食ったか?」

 ギクッ!
 匂いで分かってしまったのか、訝しげな表情で俺を睨むように見た。実はさっき、待ちきれず、一つだけ摘み食いしてしまった。ヒー! やっちまった!
 ……いや、つうか早く手放せよ!

「は、はにゃへっひぇ、いっひぇ…」
「プッ。何言ってんのかわかんねーよ」

 ムッカァァアアア! 許さん、こいつ許さん!
 馬鹿にしたように笑う相楽に殺意が沸く。べしべしと手を叩くがびくともしない。流石不良を纏めていると言えようか…。

「…じゃ、これは俺からのプレゼントだ。心して食えよ」
「は…――ムグっ!?」

 パッと頬を放された瞬間、何かが口に入る。甘く口に広がるこれは――チョコレートだ。にやりと笑った相楽は、しかし、自分の手に着いたチョコを舐めて眉を寄せた。

「あっめぇ」

 そう言って呆然とする俺をよそに、去って行く相楽。俺の口に入った指を舐めたということは間接キスになんじゃえの、とか、なんであいつが俺にチョコを、と色んなことが俺の頭の中をぐるぐると占めたが、俺は深く考えないようにした。

「…帰ろう」

 こうして良く分からないまま、今年のバレンタインデーは終了した。

fin.

相楽が嫌がらせで「甘い」チョコをあげたのか、それとも…。
それは皆様のご想像にお任せします!
書いてて楽しかったです!