「言わないで欲しいー? なら、名前で呼んでよ」
「な、何で…」
「呼ばれたいの! 淳ちゃんに!」
「……わ、分かったよ。分かったから」

 言うな、と呟けば、戸叶――日向、は嬉しそうに笑う。…仕方ないやつだな、と思う。

「なんだ、つまんねーの。まあいいけど。なんとかく分かるし」

 空音は肩を竦めてそう言った。…え、どういうことだ? 何故なんとなく分かるのか俺には分からないんだが!? じっと睨むように見ると、ニッと笑われて脱力する。…言う気はないようだった。
 それにしても、今保健室には鍵が掛かっているんだろうか? 入って来られたら色んな意味でヤバイ。

「…あの、ドアに鍵ってかけてるんすよね?」
「……ん? 鍵? ……あ」

 ハッとした顔でドアの方を向く保険医。慌ててドアの方へ行く保険医を溜息を吐きながら見ていると、突然ドアがガラガラと音を立てて開く。

「失礼します」

 や、やべえええええ!

「…お、おい! とが――じゃなくて、日向、隠れろ!」
「う、うん」

 小声で日向に話しかけ、隣のベッドに入っていくのを見届けた。…まだ見られていないことを祈る。バラたら口止めしないといけないからな。バラしてしまいそうな態度だったら、最悪、ちょっと痛い目見てもらわないといけないことになる。

「…あ、転入生」

 空音の声に、え、と目を丸くした。日向が潜り込んだベッドから視線を外す。こっちに向かって歩いてきているのは、確かに翔太だった。

「どうも、書記さん」
「おう」

 翔太は空音を見ると、心なしピンと背筋を伸ばして一礼する。そして俺を見ると、心配そうな顔をした。

「…淳也、大丈夫か?」
「ああ、寝たらすっきりした」
「そっか、よかった。食堂から戻ったら保健室に運ばれたって聞いて。すぐに来たらまだ寝てたから」

 そう笑ってみせるが、どこか落ち込んでいるように見えた。首を傾げるが、翔太は何も言わずただ笑う。

「俺、鞄持ってきたよ」
「ああ、サンキュ」
「おー、……」

 笑って、直ぐに俯いた。……やっぱり様子がおかしい。