僕はお世辞にも格好良いとも可愛いとも表記できない普通の顔で、更に肥満だ。ぶくぶくと太った横広い体で、人からは軽蔑の目で見られることが多かった。というか、すぐにいじめの標的になった。性格はどんどん根暗になっていって、その性格が原因で中のいい友達なんて全くできない。僕の友達は食べ物と断言してもいい。
 そんな僕には、憧れている人がいる。二歳年上で、僕が通う中学校一有名な不良、夕凪先輩だ。強くてすっごく格好良くて男らしい。不良なだけあって素行は荒いけど、そこがまた格好良いんだ。僕と夕凪先輩は月とスッポンで、住む世界が違う。だから関わるなんてことなんて恐れ多いっていうか、見ているだけで充分だった。
 でも――。僕は目の前の眉に皺が寄って凶悪な顔をしているけど、それでも凄く整った顔立ちをしている不良――夕凪先輩を恐る恐る見上げた。

「俺と付き合え」

 低い声が、鋭い視線が、僕に向けられる。僕はどうしていいのか分からなくて、俯いた。チッと苛立ったように舌打ちをされてしまい、びくりと肩が震えた。

「返事は」

 僕がどんだけ物分りが悪くて鈍臭くても分かる。これは疑問ではない。命令だ。僕は怖々と頷く。ふ、と笑う音が聞こえて顔を上げると、なんと、あの夕凪先輩が笑っているではないか。僕の顔はじわじわと赤く染まる。どうして付き合えだなんて言ったのか良くわからなかったけど、僕にとってそんなことどうでも良かった。夕凪先輩と関わることができるなんて、隣に居させてもらえるなんて。お菓子を食べている時のような、ふわふわとした感じが僕を包んだ。



 夕凪先輩はあれ以来笑うことなんてなかったけど、僕に暴力を振るうことなんてなかった。遊びにも行った。時間にルーズなのか数時間待つことも多かった。でもその時はちゃんと謝ってくれる。付き合いは順調だった。一応恋人って関係らしいけど、そんなこと一度もやってないし、別に僕はそれで構わない。隣にいるだけで幸せなんだ。相変わらず僕は根暗で肥満だけど、夕凪先輩は僕に気を使って何も言わない。それがとても嬉しかった。
 帰りの会が終わり、鞄に教科書を詰め込むと、僕は先日遊びに行った時に先輩が欲しいと言っていたシルバーアクセサリーの袋をぎゅっと大切に握って席を立つ。その際、クラスの中で特に僕を嫌っている男子数人が僕を取り囲んだ。僕はまた何か言われるのだろうかと俯いた。

「お前さ、まだ夕凪先輩に付き纏ってんの?」
「遊ばれてんのわかんねえの? あの人がお前みたいなデブ相手にするわけねーじゃん」

 まただ。いつも言われるけど、夕凪先輩が僕で遊ぶなんてこと、するはずがない。だって、先輩は優しいから。こんな僕に、暴言なしで話してくれるから。
 僕はクラスメイトの横を慌てて通り過ぎて、先輩のところへ向かう。後ろで聞こえた馬鹿にするような笑い声なんて、全く気にならなかった。