生まれつき目つきが悪かった。二歳年下の妹に折角いい顔をしているのに、眉間の皺と目つきで色々台無しと言われるくらいには。眉間の皺はお前たち――弟や妹の世話で出来たものだぞと言いたがったが、言っても仕方ないと思って言っていない。
 口も良いとは言えないので、昔から上級生に生意気だと絡まれてたり呼び出されたりされることも多かった。そうこうしている内に喧嘩は確実に強くなっていき、それがまた更に狙われる要素となった。友達はできたが、悪友というか、不良だ。俺はいつの間にか不良という属性に部類されていたのだ。俺は売られた喧嘩を身を守るために買っていただけだというのに。目つきが悪いだけで別に睨んでいないというのに。髪が赤いのは自分の意思ではなくてあいつ(悪友)に無理矢理染められたというのに! ピアスも然りだ。
 そんな俺は今、金持ち校と呼ばれる全寮制の男子校に在籍している。入学して三ヶ月が経った。坊ちゃんの多いこの学校には俺のような不良は恐怖の対象或いは厄介者として見ている――が、それだけではない。親衛隊という変な組織が存在するのだ。その親衛隊とは、簡潔に言うと特定の人物を尊敬し、或いは恋焦がれ、或いは護る、そんな組織だ。尊敬ならまだいいんだ。だが、ここでは同性愛が認められているので、恋愛的な意味で好かれることがある。顔がいいやつは特に。
 俺がそれを知ったのは入学した後で、それは悪友の一人である戸叶から聞いた。それなら入学する前に教えてくれよと思ったがあいつはニヤニヤと笑うだけだった。即殴った。
 俺の顔が整っているということは、割と告られたり家族や悪友から言われていたことで自覚していた。それが、まさか……男にもモテるとは。何だかとても複雑だ。俺は男なんて好きじゃない。一時の感情や雰囲気に流されてしまうな、と自分にしっかりと言い聞かせていた。それが数日前までの俺だ。――今の俺は……。



「淳也ー。昼行こうぜー」
「おう」

 嫉妬の視線が俺に声をかけたそいつに突き刺さる。俺の親衛隊でこういう敵意を見せる奴は殆どいないから、違う親衛隊のやつかもしれない。クラスメイトだが、興味ないしキャピキャピした女みたいな男はどうも好きになれない。
 俺は言っちゃあ悪いが特筆するところがあまりないような普通の男、翔太をじっと見る。翔太はそんな俺を不思議そうに首を傾げてニカッと笑った。翔太は一週間前に来た時期外れの転入生で、俺の同室でもある。俺の同室なんて嫌がるんじゃないかと思ったが(翔太の姿を見たら余計に)、予想に反して翔太は俺にこう言ったのだ。

「俺明松翔太っていうんだ。宜しく! ……えーと、確か、中村淳也、くんだっけ」

 第一印象は良い奴。それから色々な話をしていくうちに、俺の顔は弛んでいたらしく、いい顔して笑うじゃんと言われた。何故か顔が赤くなってドキドキとした。
 翔太は良い奴で、直ぐに友達がたくさんできたらしい。あの曲者揃いな生徒会の奴まで翔太を可愛がっている。よく観察してみたら、生徒会のやつとかスポーツ推薦で入ってきたやつとか、色んなやつが「そういう目」で翔太を見ていると気づいた。俺はすっげえムカムカとして、でも翔太のコロコロ変わる太陽のような明るい笑顔にドキドキとしていた。これが友達に向けるようなものじゃないと知ったのは、つい昨日だ。
 俺は、翔太を好きになってしまった。