(side:幸樹)

 あいつを慕っている七城が最近見せびらかすようにあいつと笑い合っている。本人たちには自覚はないんだろうけど、物凄く目障りだ。
 俺は副会長も好きじゃない。見つめられると何だか見透かされているような気分になる。それに、何だかんだ言ってあいつと色々話しているし。いや、俺が別に話したいわけじゃねーけど。
 先程のことを思い出して口が緩む。あいつ、バレーだって。想像したらウケる。俺だって人のことは言えないけど、でも俺以上だろ。すげぇ目立つんだろうな。つかどんな表情でやるんだろ。球技大会のことを思い浮かべてぷっと吹き出す。
 廊下で一人ニヤニヤする俺の前方から会いたくない奴がこっちへ向かってきている。俺はそれに気づいて表情を消した。

「おい稲森ぃ。どうだよ、例の件」
「…例の件?」
「はあ? とぼけんなよ、あの甘党部のKとかいう奴のことだ」
「……あー」

 あのことか、と溜息を吐きたくなる。男が期待している情報など入手していないのだけど。

「チョコチップクッキー」
「は?」
「好きなんだって」
「…だから何だよ。まさか、それだけとか言わねえよな?」

 男はニキビだらけの顔を歪めて俺を睨みつける。そんなこと言っても、情報を聞き出すのは割と難しいことが分かった。あのオメガという奴が俺たちを監視しているからな。

「あ、あと…立ち振る舞いは上品ってこととか。あれは絶対いいとこ育ちの坊ちゃんだよ」

 つまりこの学園の中でも特に良い家柄ってことだ。俺の頭には何故かあいつ――相沢駿の顔が浮かんだ。あいつが狐面なはずがない。あいつは見るだけで顔を顰める程甘い物が嫌いだし、第一あんな馬鹿っぽい真似やらないだろう。俺は狐面が嫌いじゃないけど。堂々とした態度は中々交換が持てる。
 だからこいつに潰されたくない、と思っている。

「ふーん…」

 ニヤニヤと下品に笑う男が視界に入る。うぜぇ。早く消えてくんねえかなこいつ。

「――で、どこで活動してんだよ?」

 きた。これだけは訊かれたくなかった。しかし、これを教えなければ……。ぐっと手を握る。そして口を開いた時だった。

「稲森」

 後ろから声がかかった。振り返ると、風紀委員長が俺を鋭い目で捕らえていた。だらしない格好の俺は目を付けられているので、あいつの次にこいつが嫌いだ。
 何はともあれ、助かった。ホッとしていると、男がチッと舌打ちをする。そして視界からそそくさと逃げていく。
 風紀委員長はチラリと男を軽蔑の目で見てから視線を俺に戻す。