……え?
 俺は目の前のホストみたいな格好のだらしない男教師の言葉に呆然として言葉が出なかった。何も言わない俺に舌打ちして乱暴にセットされたその茶髪を俺の心のように掻き乱しながら言う。

「…聞いてんのかよ? 俺が態々言ってやってるんだぜ。お前は昨日リコールされたんだよ。部屋もクラスもZに変わった」

 そんなこと聞いていない。確かに俺は数日間部屋に篭って生徒会の奴らがやらない書類を処理したり、その所為で風邪を引いてしまって又も数日寝込んでたりしていたけれど。何故俺がリコールされなければならないのだ。あの積もりに積もった仕事を処理していたのは俺だというのに。
 眉を顰めたが、俺の前髪が顔を隠している為気づかれることはなかった。寧ろ俺を気持ち悪い物を見るような蔑んだ視線を残し、ホスト気触れの教師は踵を返し、生徒会に俺をただ一人残して去っていった。
 一つ簡潔に言ってしまえば、俺は負けたのだ。負けず嫌いな胸がジクジクと俺を蝕んだが、それを押さえ込んで目を瞑る。そして目を開ければ俺はもう「俺」ではない。――ああ、これで自由なんだ、と。俺はひっそりと笑みを浮かべた。



 俺はあの季節外れの小汚い転入生が来る前から忌み嫌われていた。この無駄に金を使っている学園に通う金持ち連中は綺麗なものと利用できるものしか愛せないらしく、それは物にしても人にしても同じだった。顔がいいってだけで持て囃され、家がいいってだけで認められる。つまりそれらは生まれ持ったものだけで無条件に愛される。この学園が何のためにあるのかっていうと、実は本来学校の一番の目的である勉学ではないのだ。如何にして女性との無駄な関係を持たせないようにするのか考えた親は数多存在した。低俗で淫逸な女共に大事な息子が誑かされるやもしれない、と。その問題は街から離れた全寮制の男子校に跡取り息子を幼少期から放り込むことで難なく解決した。その男子校が今俺が生活している学園だ。初等部から大学まで膨大な敷地内に収まっているエスカレータ式の所というのも安心できる要素があったのだろう。そしてもう一つ、忘れてはいけない。ここは御曹司が集まる場所なのだ。それは成金、格下からとんでもない程の金持ちまで。だから媚を売って契約を結ぼうという考えも勿論存在するわけだ。
 つまりはこの学園は意外にそういう固定観念だとかに着目した腹黒さを秘めているのだ。
 しかし、学園創立者も御曹司の親たちも知らず内に重大な過ちを犯している。物心ついた男の欲求を甘く見ていたのだ。幼い頃から周りは男だけ。無常に時は過ぎ、思春期などを迎える。その思春期で欲望を抑え切れない生徒が多くなっていき、それは終には同性との恋愛に発展した。
 最初は普通の学校の普通の恋愛みたいにほのぼのとした空気であったが、段々と金持ち意識が高まっていった男達はまず初めに権力の高い男に惹かれていく。その次は顔のいい奴らだ。しかも、顔だけでなく家柄も高い男を求めた。