カーテンの閉められた暗い部屋。壁に並ぶ、キラキラとした額縁に入れられた名も知らない画家の絵、壺やら剣のレプリカやらの装飾品、天蓋付きの大きなベッド、――そして、そのベッドに背を預けて蹲る俺の姿。これには訳がある。…今日は親父の客か何か知らねえけど、兎に角得体の知れない奴が家に来ている。仕事ではないと言っていたが、特に用件は伝えられていない。まあ俺も会う気がないのだからいいんだけど。それより、知らない奴がこの広い建物の中で迷って、万が一にもこの部屋に来てしまったらと考えると眠たくても眠れない。手元に消臭剤と木刀と、小型警報器。準備はしたが、隙を見せてはいけない。
 しかし、それから暫く何も起きなくて、いつのまにか船を漕いでいた。
 するといきなり失礼しますと言って入ってきたスーツ姿の男どもに驚いてぎゃあと情けない声が出た。

「な、なななななんだよテメェら!?」

 暗くて顔が見えないので、恐怖に震える。誰ひとりとして口を開かず、何故か俺の部屋を物色している。俺はぎゅっと木刀を握り締める。か、かかってくんなら容赦はしねえ!
 数人いた内の一人がこちらに足を進める。コツコツと鳴る靴音に心臓が暴れ始めた。

「ぎょぁっ!?」

 突然首の後ろを踏まれ、驚きと痛みに変な声が出た。

「あ、いたんですか流馬様」
「お、お前かよ…! つかいたんですかじゃねえ! 早く足退けねえとクビにすんぞテメェ!」
「あぁ? 何か言いましたか」

 ぐりぐりと首を抉られるように動かされ、俺は痛みに耐え切れなくなり、ギブという意思表示の両手を上げた。

「はっ」

 鼻で笑いやがったぞこいつ…。
 この偉そうな態度の奴は一応この家の執事である叶世充。もう一度言うが執事だ。しかし、親父はともかく俺に対しては敬語も態度も適当で完全に上から目線だ。歳は俺の七つ上の二五歳だ。俺には劣るだろうけど、中々の男前だ。
 って、今はそんなことどうでもいい。侵入者が執事ならば、俺もまだ耐性はある。しかし、目的が分からない。何をしているんだ、奴らは? あと電気を点けろよ、驚くだろ…。

「じゃ、準備してくださいね、流馬様」
「は? 準備だァ? 何の話だよ、説明しろ」
「ッチ」

 うわ、今度は舌打ちしやがった! マジ腹立つんですけど。マジ腹立つんですけど!