…さて、何も考えずに出て来たわけだが。……稲森、どこにいるんだろうか。俺がサボるならここだ、というところを中心に探してみよう。俺は辺りを見ながらそれっぽい奴を探す。しかし、やはりここにはいないようだ。

「あ、会長様だ!」
「今日も格好いいー!」

 声がした方を見ると、小さくて小柄な奴らが集団できゃあきゃあ言っていた。いくら顔が可愛くても声が女よりも低いから俺は絶対そういう対象に見れない。っていうか俺は女が好きだ。あの柔らかさがいいよな。香水ガッツリつけたり化粧濃いかったりは嫌だけど。どっちかというと清楚系っつーか、スカートは膝下派だ。
 声を掛けたら騒ぐに違いないが、一応稲森を見かけていないから訊いてみようと思い、方向転換する。近づくにつれ声が黄色染みて嫌な気持ちになった。

「お前ら」
「はっ、はい!」
「稲森を見なかったか」
「え、稲森様、ですか…? いえ…」
「そうか、ならいい」

 俺は助かったと残し、その場を後にした。――いや、正確には後にしようとした。振り返った途端何かにガツっと当たった。う、うおおおあああ! 超痛ぇ!

「いっ…てぇ!」
「…っつ」

 額を手で押さえると、目の前にいる奴も押さえる。俺は謝ろうと思ったが、相手が分かるとそんな気がなくなった。

「ふ、風紀委員長様!」
「大丈夫ですか!?」

 真っ赤に燃える髪、不機嫌そうに顰められた端正な顔、風紀を正す者でありながら着崩した制服に至る所にアクセサリー。こいつの名は相楽響。腕に威圧感ある紋章を着けたこいつは、風紀委員長である。

「俺に喧嘩売る奴は誰かと思ったが…テメェだったか相沢駿」
「テメェこそ喧嘩売ってんのか! 俺は忙しいんだよ、退け」
「いやテメェが退けよ」

 何でこんな奴に俺が道を譲らなねぇといけねぇんだよ! 睨むと、睨み返される。……って、俺何してんだ。早く稲森を探さないといけないのに。仕方ない。今回は俺が譲ることとしよう。今回だけな。
 溜息を吐いて横にずれると、意外だったのか相楽は目を丸くした。そのまま突っ立っていて、俺は舌打ちをして早く行けと催促する。

「…お前、熱でもあるか?」
「ねえよ! 早く行けっつってんだろ!」
「そう言われると何か行きたくなくなるな。そういえばお前、こんなところで何してんだよ」
「…うっぜぇ。誰が教えるか」
「会長様は稲森様を探していらっしゃるようで…」
「おい」

 黙って俺たちを見ていた奴らがあっさりバラす。顔を引き攣らせて奴らを睨むと、何故か顔を赤められた。……ちょっとキモい。顔がどうとかいう問題ではなくて、気持ち的に。


相楽 響(さがら ひびき)

二年。不良な風紀委員長。
下っ端の風紀委員は大体不良。

負けず嫌いで、駿をライバル視している。