(No side)

 薄暗い部屋の中に二人の男がいた。一人はソファーに座っている男、そしてもう一人は壁に背を預けている男。どちらも顔が整っている。しんとした部屋の中、最初に口を開いたのは立っている男だった。

「本当にやるのか…?」

 立っている男は確認を取るように声をかける。止めろというニュアンスが含まれているのに気づき、ソファーに座っている男は不愉快そうに眉を顰めた。

「当たり前だ」

 言い淀むことなく発せられた言葉。真剣だということが分かり、立っている男はぐっと一度押し黙る。

「だって、お前、何かあったらどうするんだよ。俺は小母さんにお前のことを頼まれてるんだぞ」
「はいはい」

 投げ遣りに返事を返し、呆れたように肩を竦める。それが気に食わなかったらしい男が舌打ちをした。

「真剣に聞け」
「分かってるって。充分に気をつける。お前は手伝ってくれるのか? 別に嫌だったら放っておいていいんだぜ」
「……はぁ。言っただろ、小母さんにお前のこと頼まれたって」

 深い溜息を吐いてやれやれと肩を竦めた立っている男。それを見てくくっと低い笑い声を上げる。話が終わったことを告げるかのように時計が午前零時を差した。


(side:駿)

 私立宮野村学園は小、中、高、大一貫のエスカレーター式であり、偏差値の割と高い有名な男子校である。山奥に創立されたこの学園のセキュリティーは万全と言えるものであり、設備も充分に整っている。だからなのか、この学園に入学する大抵の生徒はどこかの財閥の跡取りだったり、或いはその兄弟だったり。又は、問題――例えば暴力行為や学力が足りないなど――があって他の学校に入ることが出来ない生徒も多く存在している。
 宮野村は山奥に位置していることもあってか、外部――異性との関わりなど全くないに等しい。しかし性への関心を持ち始めた生徒たちは、異性へ向けるべき欲求をあろうことか同性に向けたのだ。このような事態になってしまうのは、意識的にではなく、動物の本能に因るものだろう。ペンギンや猿、キリン、イルカを同姓同士で育てた場合、半数以上がカップルになったという実験結果も存在する。因みにこの中にメスを放り込んだところ、八組中の五組がカップルの関係を維持したという。
 さて、話を戻すが、宮野村には三代勢力というものがある。名前は仰々しいが、至って簡潔なものだ。生徒会、教師、風紀だ。これについては後述させてもらう。まあ取り敢えず権力をもっている生徒会と風紀は、人気や成績で選ばれる。大きな人気を誇る生徒会長という座。そこに俺、相澤駿は存在している。