(side:涼太)

「んであいつだけ…」

 鬼山に連れて行かれたあいつを呆然と見送る。確かに騒ぎを起こした自覚はあるが(つっても、半分は大川の所為だ)、それなら俺たちも連れて行くべきだろう。どうして栗原だけを……?
 急に静かになった大川を見てみると、真剣な表情で二人の消えて行った方を見つめていた。その顔は昔見たことがあり、自然と背筋が伸びた。

「日向野くん、生徒指導室は行っちゃ駄目だよ」
「は…?」

 言われなくてもそんな場所誰が好き好んで行くか。馬鹿じゃねえの、と言おうとして、黙る。行くなと言っているのに、目がそれとは反対のことを示唆している。
 俺は眉を顰めて大川から視線を外す。その先に、栗原と親しく話していた気に食わない男が目に入った。……まだいたのかよこいつ。
 ジロジロと不躾に眺めると、怯えたように体を震わした。…なんで、こいつ、俺にはビビる癖にあいつにはビビらねえんだよ。栗原も、なんでこんな奴――。
 ……まあ、俺にはあいつがどんな奴と親しくなろうが関係ねえけど!
 無理矢理もやもやした気持ちを納得させると、男に近づく。

「おい」
「えっ、お、俺!?」

 お前以外に誰がいんだよ。苛々しながら頷くと、青褪めながらなんでしょう、と顔を引き攣らせる男。

「そこどけ、邪魔だ」
「あ、す、すみません…」

 その声に舌打ちをし、俺は顔を顰めたまま食堂を出た。




 一体生徒指導室に何があるっていうんだよ。
 俺は自分の意思で行くとは思っていなかった場所に足を運んでいた。別にあいつが気になってるわけじゃない。ただ俺は…。そうだ、栗原が指導された後の弱っているところを――。
 言い訳染みたことを考えていると、生徒指導室に着いた。俺は少し緊張しながらドアノブを回す。簡単に回ると思ったそれは少ししか動かなかった。――鍵が掛かっていやがる。普通、かけるか…? 訝しく思い、ドアに耳をくっ付ける。こんなところを見られたら俺は見た奴の記憶が吹っ飛ぶまで殴る。

「……たんだってな」
「…! ……で……だよ!」

 ……この声、鬼山と栗原…?