文献…? 文献になるほど「異国人」には何かあるのか…?
 行って来ますと笑顔を浮かべて走って行くアイリーンを見送った。
 ――何だか嫌な予感がして顔を顰める。するとバレルが首を傾げた。

「どうした、どこか痛むか?」
「えっ、マジ!? ごめんなあ、ホント」
「い、いや。大丈夫だ」

 ジャックが申し訳なさそうに顔を覗き込んできて、慌てて背中を仰け反らせる。顔が近い!
 そういえばこいつさっき匂いが何とかって言ってたよな…。バレルも変態って…。青くなると、やっぱりまだ痛むんだ、と騒ぎ出してバレルに頭を叩かれた。

「嫌がってんだろーが」
「ええ!? 嫌がってんのか? やっぱり珍しいなぁダイスケって」

 少し不満そうに頬を膨らますジャック。それは女の子がやると可愛いもであって、お前がしても気持ち悪いだけだ! 顔は美形だから許されるレベルだけどな!
 顔を引き攣らせながらジャックを見ると、隣に居るバレルが何かに気付いたように目を見開いた。そしてポツリと呟く。

「……もしかして、えーと、ニホンだったか? そこは同性では付き合わないんじゃないか?」
「えー! そうなのか、ダイスケ?」
「あ、ああ…。そうだ。俺の住んでた所は男女が当たり前だった」

 へえ、と感嘆の声が漏れる。バレルは下顎の無精髭を擦りながら目を細めた。俺も人のことは言えないが、強面の目を細める姿は睨んでいるようにしか見えない。怪しまれているのか、と体が硬直した。

「おいオッサン、ダイスケが怖がってるぞ」
「ん? あー、悪い。睨んでるわけじゃねえんだ。ただお前にちょっと興味が湧いてな」
「興味…」

 その言葉にほっと息を吐く。モブにはならなくて済みそうだ。先程まではきっと正体不明な奴や怪我をさせてしまった人、みたいな感じで思われていたと思うから、これでちょっとは安心できる。

「俺もダイスケに興味あるな。なあ、ダイスケ。友達になろうぜ」

 一瞬言われたことが分からなくて目を丸くする。ニコニコと笑っているジャックは俺の返答を待っている。

「え、いいのか?」

 アイリーンもまだ戻ってきていないし、正体が分からないままだと怪しい――いや、こうも考えられる。怪しいから、危害や自分たちに不利なことをしないように監視する、ということだ。
 嘘を言っているようには見えないが、人の裏なんてそうそう現れるものではない。今ここで選択を誤れば、俺は……。
 緊張して汗が滲む手をぎゅ、と握った。

12/06/29