世界には自分と同じ顔の奴が三人はいるというが、その同じ顔の三人に全く同じタイミングで出会ったらどうすればいいのだろうか?
 しかも恐ろしいことに、名前までもが同じなのである。違うものといえば声と性格、喋り方、好み――つまり内面的な個性だ。それ以外では身長(計ってないから分からないが恐らく体重も)と頭髪がはっきりとした違いだろう。


「同じ顔で同じ名前だと紛らわしいよなー。髪型とかで分けるのも何か嫌だし。ボクのことはジョンと呼んでくれよ」
「はあ? 何でジョン?」
「飼い犬の名前」
「じゃーあァ、オレのことはぁ、バラとでも呼んでやぁ。つか呼べ。呼ばねーとォ、ころぉす、……かも?」
「あー…、じゃあ俺はレイって呼んで。……で、さっきから黙ってるアンタは?」

 この部屋に存在しているのはスタイリッシュショートの茶髪の、俺とその他の奴よりいくらか爽やかな感じの同じ顔、ジョン。そして緩やかにウェーブを描いている長めの乳白色髪をした、語尾が伸びてだらしない……脱力系? っていうのかな、そんな感じの同じ顔、バラ。最後に紺碧色をしたカジュアルショートにピアスをこっちが痛くなるほど空けている少しきつめの同じ顔、レイ。
 レイは面倒臭そうな表情で、呆然としてまだ一言も話していない俺に名を訊ねた。返事を待たずに煙草を銜え、ポケットからジッポーを取り出して火を点けた。どっからどう見ても不良だ。俺がやってもサマにならなそうなのに、レイは似合うって何だか色んな意味で複雑だ。
 爽やかに笑うジョンと微妙に怖いことをダルそうに喋っていたバラも俺の方を向いた。割と印象が違うとはいえ、鏡でもないのに同じ顔に見つめられるのはあまりいいものではない。
 それにしても、飼い犬の名前のジョンはまだ分かるにしてもバラとレイはどこからきたんだ? 二人もペットがなにかからとったのだろうか。

「アンタはぁー、ボン様だァ」
「えっ、ボン…さま?」
「おっ、いいねそれ。そうしようぜ。宜しくボン様」

 全く意味が分からない。ボンって何だよ。そして何で俺だけ様付けなんだよ。何故か俺だけ勝手に命名されたが、結構好意的に接して貰えて安堵する。俺に名を訊ねたレイからは反応が無い。視線を向けると、興味なさそうに本を漁っていた。
 ニヤニヤとニコニコの笑顔に挟まれ、居心地が悪かった俺はコップに残っていたオレンジジュースを飲み干した。