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 突然だが、俺は今猛烈に気分が悪い。

「……おい」
「……へへ」
「へへじゃねえよ! 何であいつ来てんだ! 滅多に来ないんじゃなかったのか!?」

 小声で怒鳴ると、苦笑を返された。周りの反応からして、あの言葉は嘘じゃないとは分かったが、しかし……来てしまったのだ。リーゼント大石が。そして俺をガン見している。
 何が悲しくて男にこんな熱情的な視線を向けられなきゃなんねえんだよ…。そこでビビってる可愛い女子からの方がいいと切実に思いながら溜息を吐く。何が何でも視線を合わせるものか、と前の奴の後頭部を睨んだまま声を掛けた。前の奴の体が震えている気がするが、……気にしないでおこう。

「こっち見るんじゃねえ」
「照れてんのか」
「…おめでたい頭だな」
「それほどでも」
「いや褒めてねえよ!」

 検討違いの答えに、思わず横を見てツッコんでしまった。しまったと顔を歪めると目が合った。ニヤリと笑われ、舌打ちをする。

「すげえ…大石が笑った」

 隣で呆然と呟く更木。俺は顔を引き攣らせながら、大石の子どもが泣きそうなあくどい顔を見つめた。出来ればこいつらでも見たことなかった笑みを見ないままでいたかったぜ…。

「万里」
「……名前を呼ぶんじゃねえ」
「何でだよ。前はお前から呼んでくれって言ってたぞ」
「だから俺は覚えてないんだって。つーかいつの話だよ本当に」
「十年くらい前だ」

 覚えてねえよそんなに昔のこと! 寧ろ何でお前はそんなにきっちり覚えてんだ!

「そういえばさ、瀧口ってあの南校から来たんだろ?」
「あ? あー、まあ」

 南校というのは前通っていた、不良校で偏差値の低い高校で有名な高校の名前だ。まああいつら本当に馬鹿だからな。俺も人のこと言えないけど。いや、でも蓮は確か頭が良かった気がする。何でも教科書見りゃ分かるってことで……。腹立つわ。

「じゃあやっぱ毎日喧嘩尽くしだったわけ?」
「何でだよ。喧嘩は…他校の奴に絡まれた時ぐらいだな」
「えー、意外だな」

 俺はあんまり喧嘩強くねえから専ら観戦。時々腹立つ奴を殴る程度だ。ほら、喧嘩すっと親に怒られるし、怪我すると痛ぇし。俺にとってあんまいいことないわけよ。そう言うと、見た目だけだなと笑われた。……この髪型は違うんだってばああああ!


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