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 実はまだ中学の時、俺の気持ちがバレそうになったことがある。委員長だった俺が先生に呼ばれ、手伝いを任された日のことだ。任された仕事を終えて教室に荷物を取りに行くと、中で数人の男が話していた。その中には尚志もいて、俺は何を放しているのか気になってドアに耳を近づけてこっそりと聞くことにしたのだ。

「なあ、大樹っていつも尚志にくっついてるけどさ、キモくねぇの?」
「はぁ?」
「しかも時々尚志を見る視線が熱いっつーかさ。もしかして大樹って尚志のこと好きなんじゃね?」

 どきりとする。熱い視線だったのか。完全に無意識だった。……尚志はどう思うんだろう。
 いつか付き合いたいと思っていたあの頃は、バレるという恐怖感より、尚志が俺をどう思っているのか気になるドキドキがあった。

「キモいこと言うなよ」

 しかし、この言葉で俺は硬直する。冷たい声だった。冗談を含んでいる声音ではない。

「ぇ、あ、ごめんって!」
「そうだよな、大樹がホモなわけがないよな!」

 慌ててフォローする男たちの声なんて俺には全く入ってこなかった。……俺の気持ちは間接的に拒絶されたのだ。俺は頭を鈍器で殴られた衝撃をそのままに、ドアを開ける。ドアの開く音にこっちを見た男たちは一斉にバツが悪い顔をした。俺は笑みを貼り付けた。

「おー、お前ら何してんのー?」

 自分でも驚くほど冷静な声が出た。これなら、ちゃんと笑みを浮かべているだろう。
 尚志は一瞬目を見開いて俺をみたけど、直ぐに視線を逸らした。チリっと痛む胸を無視してそのまま立っていると、男たちが慌てる様子が視界に入った。

「い、いや。別に。ちょっと話してただけだよ。な?」
「そ、そうそう」
「ふーん? あ、尚志、帰ろうぜー」

 俺の発言にホッとしたようだ。尚志はと言うと、再び俺に視線を向けて一瞬黙った後頷いた。

「おう」

 立ち上がって近づいてくる尚志の手には俺の鞄が握られていた。小さな優しさに胸を高鳴らせながら俺と尚志は男たちに挨拶をして教室を後にした。

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