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「――って、なんじゃこりゃ」

 俺は生徒会室の惨状を目にしてあんぐりと口を開けた。ゴミ屋敷とまでは言わないが、それに近いものを感じる。俺は渋々ながらも先輩の頼みを受け入れたことを早速後悔した。これを先に見ていたら、俺は断っていた。……いや、どちらにせよ俺は頷いていたか…。
 というのも、人質をとられていたからだ。俺の部屋にあるはずのゲームがなぜか先輩の手のもとへ。このゲームがどうなってもいいのかと脅され、仕方なく、そう仕方なく頷いたのだ。

「っていうか、生徒会連中はいずこへ」

 とりあえず生徒会室へ行けと言われ、鍵を受け取り来たのはいいが、いないのなら話にならない。というか、生徒会全員じゃなく、俺が説得するのは会長なんだろ。他の役員がいたら絶対面倒なことになるのに。風中先輩は何を考えているんだ。文句を言ってやろうとスマホを手にすると、アドレス帳をタップして先輩の名前を捜す。
 ――そんな時だった。生徒会室の重々しい扉が音を立てて開いたのは。俺はハッとそちらに顔を向ける。

「……あ?」

 相手も目を見開き俺を見ている。ひどく顔立ちの整った、黒髪長身の男の今まで見たことない気の抜けた顔に、俺もまた口をぽかんと開ける。いつもの偉そうなオーラは消えていた。

「何だ、テメェ。どうやってここに入った」

 我に返った男――泉田会長がぎろりとこちらを睨んでくる。一応会ったことはあるし名も名乗ったこともあるが、覚えていないらしい。まあ、当たり前か。俺はこんな美形じゃないし、入学したての時に一度会っただけだ。覚えている方が驚きだ。
 ていうか今にも飛びかかってきそうな勢いなんだけど、どうすればいいですか、風中先輩。助けてください。

「えーと……あ!」

 どうしようかと視線を動かしていると、俺は見てしまった。叫んで、口がわなわなと震えた。

「ああ!?」
「会長の足元にゴゴゴゴ…!」
「ごごご…は?」

 再び会長がぽかんとした気がするが、それどころではない。

「ゴキブリが……!」
「は!?」

 会長の顔がさっと青ざめた。


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