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 なんで。

「マサ、こちらが畠山さんの息子さんで、知親くんだ」

 畠山知親という名の彼は、俺を見て唖然としていた。
 なんで、なんで。
 なんで、こいつが、チカちゃんが──ここにいるんだ。

「マサ、」

 チカちゃんが俺を呼ぶ。
 甘ったるいお菓子のような声は、猛獣のような鋭さを持った声に変わっていた。そんな声で、俺を呼ぶ。変わってしまったチカちゃんが、変わってしまった俺を呼ぶ。

「……本当に、マサなのか?」
「…ん、なんだ? 知り合いだったか?」

 父さんが俺とチカちゃんの顔を交互に見つめた。声を出せずにいる俺をちらりと見て、チカちゃんが苦笑した。

「はい、実は中学の時に同じクラスで」
『マサちゃん、俺マサちゃんのことマジで好きだから。チョー好き』

 脳内で流れる音声は、一体誰。
 目の前の、仕事ができそうなこいつは、一体誰なの。

「そうだったのか」
「はい。高橋さんの息子さんだとは思っていなくて、驚きました」

 チカちゃんは笑う。父さんも笑った。俺は、ただ俯いていた。







 少し、昔話をしよう。
 俺は眉毛の手入れをしたことすらない地味な男だった。人見知りだったから話しかけてくれた人ともろくに喋れなくて、次第に話しかけてくる人は減って、終いには誰一人としていなくなった。俺は浮いていた。ずっと俯いていて暗い奴だった。
 もう一人、浮いている奴がいた。名を畠山知親という。真っ黒な髪が並ぶ中、一人だけプリン頭だった。奴はピアスやシルバーアクセサリーなども付けていて、制服はファッションのようにして着ていて、そして声が煩かった。しかもその喋り方が間延びしたもので、それが腹立たせるのか先輩に呼び出されたり先生に目をつけられたりしていた。
 俺とは住む世界が違う。そう思っていた。


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