無口な男が笑う時

無口な男に惚れる時続編/守屋視点













 俺は迫のことを許さないと思っていた。というか迫がもう近づいてこないと思っていた。
 教室の扉を開けると、皆俺を一瞥し、さっと顔を背けた。そう、こんな感じで、迫も俺を避けると思っていた。しかし。

「お、おい、守屋」

 席に着くと、誰かが近寄ってきた。勿論迫だ。
 周りの奴らがぎょっとしたように迫を見る。しかし迫はそんなこと気にしていないようだ。
 しかしなんでそんなに緊張しているんだ。じっと見ていると、迫の顔がじわじわと赤くなった。良く分からない。しかも何のためにここに来たんだ。

「…何か用か」
「っ! べ、別になんもねえよ!」

 何もないならそこに立たないで欲しい。気が散る。
 もう無視して本を読もうかと考えていた時。

「お、お前、今日も花屋に行くのか?」
「……だったら何だ」

 俺は少し首を傾けて迫を見上げる。漸く落ち着いてきた迫の顔がまた赤くなった。いや、だからなんでそこで赤くなるんだ。

「……俺も行っていいよな?」

 は?
 行っていいよなって…何でだ。数秒間、考えてああなるほどと納得する。そういえばこいつは、花に興味があると言っていたな。俺はすぐに頷く。すると俺が頷くと思っていなかったのか、迫は目を丸くして俺を見た。

「は? いいのか?」

 もう一度頷く。すると迫の口角が上がる。花屋がそんなに楽しみなのかと俺も少し嬉しくなった。
 迫とはもう関わりたくないと思っていたのに。俺って単純だなと思った。

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