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 外に出た。溢れかえる人を見ながら、”殺さなければならない”奴を探したが、それらしいのはいなかった。

「……あつい」

 俺はだらだらと流れる汗をそのままに、日陰を求めてふらふらと歩く。街行く人々が俺を奇異の目で見ている。そうか、今は夏か。だから長袖で、マフラーを巻いている俺はおかしいのか。

「ちょ、ちょっと、キミ。大丈夫? 顔真っ赤だよ」

 あ、やばい。倒れる。
 ふらあっとして日光を充分に浴びたアスファルトい倒れることを予想したとき、誰かが俺の腕を取った。そこが燃えるように熱くなって、俺は呻く。

「わ、わ、え、どうしよう。え、救急車呼んだ方がいいのかな、これ」

 男は慌てた様子でブツブツ言っている。何故かそれがとても不快で、助けてくれたというのに、俺は腕を振り払って、自分の足でしっかり立った。男の顔を見て――心臓がどくりと跳ねる。

「あ、えっと。大丈夫なの?」

 ――こいつだ。
 俺は、はっきりと、確信を持って、思った。

「とりあえず、その季節外れな洋服、着替えた方がいいと思うなあ。キミ、家は近く?」

 俺は首を振る。どくどくと心臓の脈打つ音が煩くて、俺は耳を澄ました。そうでなければ周りの雑音も合わさって、男の声が聞こえなかった。
 男は不快を感じる顔で、俺を見て笑った。

「じゃあ、俺ん家おいで。直ぐにクーラーも効くだろうから、涼んで行ってよ」

 男は俺が頷いたのを見て、歩き始めた。














 男は見るからに遊んでいそうな男だった。タレ目なところや顔立ちはドクターと似ているが、ドクターはこんなに節操なしには見えない。他人の空似というやつだ。
 男の家は、お世辞にも広いとは言えない貧相なアパートだった。派手な見た目とミスマッチで、俺は目を瞬く。流れるように部屋に案内され、座る場所も指定された。

「麦茶だけど、飲む?」

 頷く。男はにっこり笑って冷蔵庫の方へ歩いて行く。金髪の襟足をぼおっと見つめて、むくむくと殺意が俺の中で育っていく。なぜ。俺は、この男が憎いのだろう。

「はい、どうぞ」

 男は氷の入ったコップを俺に渡して、暑い暑いと言いながら向かい側に腰を下ろした。

「うん、とりあえず、キミさあ、そのマフラー…外そっか」

 あ。
 マフラーを外せばいいのか。そうしたらこの暑さから逃れられるのか。

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