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 たまきは直ぐに特定することができた。彼を尾行したのだ。そんなこと初めてだった僕はいつバレるかと始終不安だったけど、奇跡的にバレることはなかった。どうやら他校らしい。制服に身を包めたその人物は、僕の想像とかけ離れた容姿をしていた。何日も洗ってなさそうなゴワゴワの髪、分厚くて顔を覆う大きな眼鏡。面食いな彼が嬉しそうな顔をして近づいて行ったのを見たときは夢でも見ているのかと思った。悪夢なら覚めてくれと願ったけれど、最悪なことに、これは現実だった。
 たまきは彼より細く、小さかったけれど、かといって小柄でもなかった。見ているのが辛い。そう思って我武者羅に走って辿りついた公園で一人、声を殺して泣いた。

「ねえキミ、どしたん?」
「えっ……」

 突然上から降ってきた声に驚いて目を見開きながら顔を上げると、飴玉を咥えた金髪の男の人が不思議そうな顔をして僕を見下ろしていた。太陽を男の人が遮って、一気に暗くなる。

「その制服…南高のだよね? 高校生にもなってそんなわんわん泣くなって」

 よしよーしと言いながら髪をぐしゃぐしゃにされ、いきなりのことに僕は口をぽかんと開け、暫くの間されるがままになっていた。ハッと我に返り、慌てて手を退けようとする。

「や、やめ、やめてください!」
「ええ〜? あっ、お前の頭鳥の巣みたい! ウケるー」

 お前がやったんだろ!
 僕は恨みを込めた目で睨みながら髪を直す。けらけらと笑っている男の人の口から八重歯がキラリと光った。改めて良く観察する。前髪を上にやってピンで留めているから、顔立ちがしっかり見えた。釣り目で短眉だ。そして着崩した制服とジャラジャラしたアクセサリー。だけど顔立ちはとても整っていて、昔見た不良のドラマにこんな感じの人がいたような気がする。
 ヤンチャしてそうな見た目だけれど、彼に比べたら可愛いものだ。彼は殺人でも犯していそうな凶悪な顔つきをしているし、喧嘩にも容赦がない、と噂を聞いた。
  
「んで? 何で泣いてたんだ。あ、てか名前何? 俺、恭」
「あ…僕は良太」

 僕はその時初めて、恭の制服が、たまきのものと同じということに気がついた。あまりにもアレンジされているから分からなかったんだ。

「あの…た、たまきって人、知ってる…?」
「たまき? うん、知ってるけど」
「え!?」

 僕は驚いて声を上げる。まさか、知っているとは思っていなかった。

「だって、あいつ、目立つじゃん」

 その言葉に納得した。…うん、目立つよね、あの恰好は…。

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