26

 そんなこんなで気が付けばもう夕方だった。今日って、いったい何だったんだろうか。俺は横で上機嫌に歩いている加治を窺う。
 今日、一緒にでかけただけのような感じだが、俺と加治の関係は被害者と加害者である。しかも、前世では敵対していた。それなのに、何で普通に友人のように歩いているんだろうか。おかしいだろう。加治はいったい何を考えているんだ?

「おい」

 声をかけられ、はっと思考から引き戻される。加治とは少し距離が離れていた。

「なにぼーっとしてんの」
「あ、いや…」

 何でもない、と答えようとして、思いとどまる。今だったら、答えてくれるかもしれない。

「…何で、今日誘った?」

 誘われたというには些か強引だったが、他に言いようがないためとりあえず誘われたことにしておく。
 加治は虚を衝かれたような顔で俺を見た。そして言いにくそうに目線をきょろきょろと動かす。はっきりと物を言う加治には珍しく、言うか迷っているようだ。

「お前が――兄貴には、良い顔するし、一緒に出掛けるから」

 ぼそりと呟かれた言葉。その顔は少し赤く染まっている。俺は思わず「は?」と口にしていた。

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