25

「なんだ、普通にまともなの読んでんじゃん」

 馬鹿にしたような言い方にむっとしたが、加治が本当に驚いているように見えるので、何も言えなかった。
 気を取り直して、好きな作者の名前を探すが、加治がじいっとこっちを見てくるのが非常に気になる。……俺を監視しているのか? 勝手に帰ったらなんか言われるだろうし、見張らなくてもいいのに。

「…加治は、本読まないの」

 居たたまれなかった俺は、加治に訊ねかける。質問されると思っていなかったのか、加治は目を丸くして俺を見た。

「俺?」

 俺は無言で頷く。加治は少し悩むように視線を宙に遣ると、そうだな、と小さく呟いた。

「…漫画?」

 言っておくが、漫画は俺の中で本には入らないぞ。そんなことを思っていると、呆れが顔に出ていたのか、加治はじろりと俺を睨んだ。

「なんか文句あるか?」
「…いや、何も」
「何もって顔してねえし」

 むすりとむくれるその顔が年相応というか、少し子供っぽくって、俺は初めて加治の優位に立ったように感じた。

[ prev / next ]



[back]