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※入学試験の後の話です。




 暑い。
もう秋の筈だ。何故こんなに暑いのだろう。
 うっすらと目を開ける。まだ少し見慣れない薄汚れた天井。
 ていうか体が物凄く重いんだが……。
 寝返りをうとうとも体が動かなくてできない。もしかして金縛りか。目線で部屋中を見回して、そして。

「……うわっ!? 国分寺先輩っ!?」

 何!? 何でここに!? と、取り敢えず落ち着こう。ここは間違なく俺の部屋だ。横には何故か上半身裸の国分寺先輩。って何で裸!?
 体が動かないのはどうやら抱き付かれているからのようだ。
おいおい、俺は抱き枕じゃないんだぞ。

「こ、国分寺先輩、」
「……お前は間違いなくトマトだろ…」
「なんの夢見てるんですか……、ってそうじゃない、国分寺先輩、起きてください!」

 誰がトマトなのかは少し興味があるが、いい加減苦しいし暑い。俺は国分寺先輩に大きめの声で呼びかける。大きめの声って言ってもハルはまだ寝ているかもしれないしそこまで大きく声を出せないのだが。
 漸く目を開けた先輩は寝ぼけた目でこっちを見た。それはいつもに増して色っぽい。艶かしいと女性にも感じたことなんてなかったのに、同姓に感じるとは。
顔に熱が集まるのは仕方ないと思う。

「……、ああ……お前か」
「っは、はい。あの…何故先輩がここに、服を何にも着ないで、そして俺に抱きついているのかを簡潔に説明して貰えるでしょうか」
「…何だ、寒いのか…? 仕方ねえ……、俺様が暖めて――」
「結構です」

 この人、寝ぼけてやがる…!
 逆だよ、暑いよ。今秋だよ! 秋に汗が出るような暑さに遭遇したのは初めてだよ!
 身動きがとれないから体を押し返すことも出来ない。どうしようか、と半ば諦めかけながら考えていると頭上から戸惑ったような声が聞こえた。

「お前、なんでここにいる?」

 漸く目を覚ましたようだ。さっきまでの暑苦しさも重さも消えた。布団の間から風が入り込んできて少し涼しくなった。起き上がった先輩に続いて俺も起き上がる。視線を向けると形の綺麗な目がきょとん、としていた。それは何だか年相応で俺と一つ違いなんだなあと改めて思った。


「ていうか、あの…。ここ、俺の部屋ですよね」
「ああ? ……、そういやあ見慣れねえ部屋だな。確か昨日は下僕に用があって…、あいつがいなかったし眠かったから適当に寝たんだっけか…」
「……何故人の部屋に無断で…」
「まあいいじゃねえか。それより」

 言葉を切ってにやりと笑う。あ、何だか嫌な予感が。

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