ちい姫さまの恋事情
羽衣子  2/23



十六。
自分の年齢を考えて、姉さまがいる内裏へ参内したときからもう二年も経っているのだと気付かされる。
私には衛門督という、結婚の約束をした人がいた。運命的な出会いから恋をして、結ばれたと思ったら裏切られて。あの恋を忘れるのには、随分とかかった。

衛門督……柾路さまとお別れするためのけじめをつけてから、もう一年になる。


「恋を知った女人は美しくなる、と言うわ。あれだけあどけなかったちい姫が、そんな表情をするようになったなんて。なんて小憎たらしいのかしら」


私と柾路さまの間に何があったか知っている姉さまの言葉には、皮肉が込められている。初めこそ結婚が決まったときは喜んでいたと言うけれど、結果的に左大臣の失脚と道連れのように破局となってしまった私を哀れに思ってのことだった。


「もう良いのです、姉さま。おかげで立派な女人らしく振る舞えるようになった気がします」


「よろしくないわ。わたくしのちい姫がこんなに寂しそうにしているのだもの。何かあるに違いないわ」


「姉さま……」


私の心情を覗き見ようとする姉さま。こんな私の有り様を見て、誰もが“衛門督との結婚が叶わなかったことを憂いている”と思うのだろう。それは周知の事実だったから。
でも、そんなことではないの。

今の私は、“そんなこと”と言えるくらいには柾路さまを良い思い出にできている。かの人が元気で、幸せにしていればそれで良いと思っているほど。
どちらかと言うと。


「有明の宮さま、ね?」


「……っ」


「あたり」


ふふ、と笑いながら姉さまが私の顔を撫でる。


「燃えてしまった我が家を助けて下さった宮さまが、ちい姫のことを妻にしたいとお思いになられていること、知っていたわ。兵部卿宮を任官された時、挨拶に来て下さって。わたくしにそうおっしゃっていたの」


「姉さまのところへ……?」


「もちろん以前の宮さまだったらちい姫は差し上げられないと断っていたわ。でも、ちい姫のためにその身を呈して動いて下さって、浮ついた噂も聞かなくなって、真面目に働くようになって。これは本気なのだと思えることができたの。今の宮さまにならちい姫を任せられると思っていたのに、まさか文のひとつさえ寄越さなくなるなんて」


「なぜ、姉さまがそのことをご存知なのですか」


「浮草から聞いたのよ。あの子もちい姫のことをとても心配しているのだから」





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