ちい姫さまの恋事情
移ろい  17/17



「ささらはこれからどんどん可愛くなるわ。あんな可愛くていい子、どこを探したって見つからないもの。噂が流れたら他の殿方が黙っているとは思えない」


否定できない伸弘が、眉根を寄せて睨んでくる。もうそんな顔をしたって、怖くないわ。
”ささら”という弱みを握ってしまったから。

いくら相手が伸弘でも、そう簡単には手放さないわ。
私がささらを拾ったんだもの。優しくて、器量も良くて、人の心の痛みに敏感で、いつも励ましてくれて。あんな風に笑えるようになるまで見守ってきたのよ。
ささらにはまだ、一緒にいてほしい。その時が来るまでは。


「預からないから。ささらはささらの意思でここにいるの。出ていくときも私はささらの意思を尊重するわ。……でも、しょうがないからあなたの言うことも少しは頼まれてあげてもいいわ」


「な」


「ささらに変な男が近づかないよう、見張っててあげる。ただし!わたくしのことを金輪際ちび姫と呼ばないこと。いいかしら」


「く……、ちび姫のくせに」


「ち、び、姫?」


「……あぁもう、分かったよ!ち」


「ち?」


「……ひ、めぎみ」


伸弘は百歩譲ってそう呼んでやるんだからな、と言いたそうな顔をしているけれど、私は初めて伸弘を言い負かした気がして、誇らしい気持ちになった。


「よろしい。ささらのことは、言われなくても大事にするわ。だからあなたも。……柾路さまのことをよろしくお願いします」


「分かったよ。楽兄にまかせておけば、何も心配することはないから安心してよ」


「ありがとう、伸弘」


伸弘がささらのことを想っているなんて、なんだか顔がにやけてしまう。
柾路さまのことを任せることもできたし、さっきまでの悲愴感が嘘のように、心が晴れやかだった。
心の中の靄が一気に消えたようで。


私が浮草と部屋に戻るのを見届けた伸弘は、いつの間にか帰ってしまっていた。
私も寝る準備をして、御帳台に入る。他の女房が用意してくれていた炭櫃のおかげで、部屋は暖かかった。

横になり大袿を深くかぶりながら、私は大きく息を吐いて目を閉じる。

明日から、今までとは違う私になるの。
苦手な縫い物も、箏も歌もたくさん練習する。嗜みのある素敵な女人を目指すわ。

宮さまは変わらず、会いに来てくださるかしら。
来てくださったら、まずは私の扇を返してくださいって伝えるの。

そうしたら気づかれてしまったか、といたずらっぽく微笑んでくださるはずだから。



そう、伝えたいのに。


この日以降、宮さまは会いに来てくださらなかった。








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