ちい姫さまの恋事情
移ろい  12/17



「いや、寝顔だけでも見てくるよ」


「え、でも」


「ささらの居場所なら、何度も来てるから知ってる」


いいえ、そういうことではないの。こんな夜更けに女房の局を尋ねることが常識的ではないと言いたかったのに、伸弘からとんでもないことを聞いてしまった。
何度も来ているって、知らなかった。盗賊だから忍び込むのも簡単にできてしまうのね……。


「ささらからはあなたが来ているって、聞いてないわ」


「そりゃそうだよ。俺が来ていたことをちび姫に伝えたとして、なんの得もないからね。しかも都を賑わす大盗賊だよ?他の女房たちに騒がれたらそれこそ不利益じゃないか」


「……たしかに」


私が盗賊の邸に囲われていたことは知っていても、伸弘が誰か知らない女房たちは騒ぎ立てるだろうというのは腑に落ちる。
都を賑わす大盗賊かどうかは、別として。


「まあ、あんたの様子を知りたがっていた奴がいたから、こっちに来ていたってのもあるんだけど」


ゆっくりと立ち上がった伸弘が、自分の後ろを振り向いて私を近くまで来るよう促す。
身を乗り出す形で釣殿の中島に面している高欄の下を覗き込むと、見覚えのある人影があった。
はっと息を呑む。


「じゃあ俺は行ってくるから、ごゆっくりどうぞ」


慌てて伸弘のほうを見たけれど、もうその姿はどこにもなかった。そうなったことで浮かんだのは、宮さまのお顔で。この方が来ることを知っていて、宮さまはあえて私をここで待つように指示をしたのだ。
本当は嫌だったはずなのに、私のことを一番に考えてくださっている。

ああなんて。あまりにも健気で、嫌味なほどお人好しな方なの。


「姫君、ご無沙汰しております」


少し掠れた声。
月が一層明るく、目の前にいる人の姿を浮かび上がらせる。

私の記憶にあるのは、いつも整っていた直衣。それが古びれ汚れた狩衣になり、きれいに纏め上げられていた髪は烏帽子も被らず無造作にそのまま背に流されている。
でも、その精悍な顔立ちは初めて会ったときのまま。


「柾路、さま……」





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